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映画「ザ・コーブ」の町はいま?和歌山県太地町から

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 世界遺産である熊野古道を行ったついでに、くじらの町として知られる和歌山県太地町を訪ねた。この町を全世界に知らしめたのが、2009年に公開されたアメリカのドキュメンタリー映画「ザ・コーブ」だ。イルカの追い込み漁を潜入取材した作品はアカデミー賞を受賞したことで物議を醸した。広い入江(=Cove)がイルカの血で真っ赤に染まる映像は衝撃的だったが、当たり前のようにイルカ漁を続けてきた町民にとっては不本意な扱われ方だった。反捕鯨思想に偏りすぎている内容が「反日的」と批判され、上映禁止に追い込まれた劇場もあった。思うに表現作品が「反日」という理由で攻撃されて抗議が殺到し、開催が中止に追い込まれる悪しき前例を作ったのはこの作品からではなかったと思う。あれから10年、「ザ・コーブ」の町・太地町は今どうなっているのか?街を走るとあちこちにクジラのモニュメントが飾られていた。街の中心部には全国に例のない「くじら博物館」が立っていた。

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 結論から言うとイルカの追い込み漁は今も続けられていた。街のスーパーやお土産屋では、今もイルカの肉が売られているという。しかし、有名な追い込み漁は映画の舞台となった入り江では行われておらず、一般の人が見れない奥まった場所に移った。映画の影響で見せたくないという漁民の心理が働いたのだろう。一方、毎年のように太地町に殺到していた外国メディアや環境保護団体の姿はコロナ禍の影響で鳴りを潜めた。街は一見、静けさを取り戻した。とはいえ、太地町でもこの10年でクジラ肉への需要は減っている。

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 昭和世代には給食で出た鯨の竜田揚げが懐かしいが、タンパク源の少なかった当時の食糧事情があってこそだ。捕鯨派の人がよくする主張に「給食で出た竜田揚げは美味しかった」という声があるが、さまざまな食材が入手できる今、もっと美味しいマグロや牛肉を抑えて、鯨肉が家庭の食卓を賑わすだろうか?残念ながらその需要は風前の灯と言わざるを得ないの実情でhsないだろうか?太地町の人はそのことを見て見ぬふりをしている気がしてならない。代わって太地町の捕鯨ビジネスを支えるようになったのが生きたイルカの輸出だ。一頭数百万円で海外、特に中国やアジアの水族館へイルカショーの主役として売られるようになった。(日本動物園水族館協会が取引をしたため、取引先は海外に限られる)。

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最後に太地町を歩いていて、気になったことがある。街の荒廃ぶりだ。コンビニもない。お店も少ない。鯨のモニュメントばかりで活気がない。これが鯨ビジネスにだけこだわり続けてきた、成れの果ての姿ではないかとさえ思った。人口3000人の小さな町で鯨産業に従事する町民はわずか200人程度だ。その人たちを守るために太地町は捕鯨再開の急先鋒になり、その正当性を訴えてきた。政府もくじらの町、太地町を利用してきたと言えないか。この10年の間に、鯨ビジネスに代わる街の新たな振興策や、思い切った産業転換を考える余地はなかったか悔やまれる。(了)

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