地球建築家vol.5 ルイス・カーン Ⅱ
ルイスカーンはモテた
本当にモテた。
三人の女性との間に子供を作った。しかし三人の女性は皆、未婚の母となった。
全くもってイケメンではない。冒頭の写真を見ればお分かりかと思うが、ひどい火傷の跡がある。この火傷を負った理由がこれまたかっこいい。
幼い頃、暖炉の火があまりにも美しく、顔を近づけすぎて火傷を負ってしまったのだ。芸術家は、幼い頃から芸術家なのだ。
カーンがモテたのは、有名だったからではない。お金を持っていたからでもない。
人間的魅力ゆえにである。
第一、さほどお金は持っていなかったと思う。カーンの死後、事務所には多額の借金が残されたという。
人間的魅力がなければ、そんな危機的な経営状況の中で、スタッフがついて行くはずがない。スタッフをまとめ上げて一大事業を成し遂げることなど、到底不可能である。
朝は顔が白いが、次第に下の方から赤くなり、夕方にはほとんどどす黒く黒ずんだ。カーンは一日中怒っていた。一日中罵っていた。しかし、一歩事務所の外に出ると、タダの人だった。全く迫力を欠いていた。カーンは人なつっこかった。
カーンの事務所で働いていた工藤国雄さんの「私のルイス・カーン」からの引用である。
リーダーには魅力がなくてはならない。
「魅力」とは「ギャップ」である。
仕事を器用にこなす完璧な人間に一見人はついて行きそうに思える。しかし、実際はそうでもない。
仕事はもちろん出来るが、どこか頼りなく不器用で、協力してあげたくなるような、可愛げのある人間に人はついて行くのだ。
カーンの事務所での鬼のような姿と、事務所をでた時の腑抜けのような姿のギャップに、きっとまわりの人々は安心し、魅力を感じたのだろう。
カーンはどんな相手であれ、面と向かっている間は最高の敬意を持って接していた。
カーンは誰よりも建築に厳しかった。
しかし、それは建築についてだけで、人間に対しては、誰よりも優しかったし誠実であった。
建築への情熱と可愛げのある人間性。
それが女性のみならず、あらゆる人々を虜にしたのだろう。