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山手線はグルグル回る環状線? その認識は改めた方がいい(鉄道マニアなら知っておくべき知識)
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東京の都心と副都心をグルグル環状運転している東日本旅客鉄道(JR東日本)の「山手線」。私もよく使っています。山手線で現在走っているE235系電車は、イーサネット(端的にいうと有線LAN)を使って各種情報を伝送するという、登場時としては画期的な車両でした。
「山手線」と聞くと、皆さんは「東京から品川、渋谷、新宿、池袋、田端、上野、秋葉原と通って東京駅に戻る環状線」という認識を持っているかもしれません。確かに、JR東日本が「山手線」と案内しているのは、そういう運転を行う電車です。
しかし、“本当の”山手線は環状線ではありません。僕のX(Twitter)を見ている人なら、たまにネタにしているので知っているかもしれませんが、この記事では“本当の”山手線と、普段私たちが「山手線」と思っている環状線の正体を紹介します。
JR東日本の「有価証券報告書」を見れば“本当の”山手線が分かる
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日本における鉄道路線には、必ず路線名が付けられています。路線名は乗客にそのまま案内されることもあるのですが、何らかの理由で本来の路線名を“伏せて”、通称を案内することもあります。その通称は、路線名からは全く想像できないもの(※1)もあれば、複数の路線をまたがる「運転系統」を分かりやすく案内するために付けられたものもあります。
(※1)このパターンは東武鉄道が分かりやすいです。同社の伊勢崎線は東京都台東区の「浅草駅」を起点に群馬県伊勢崎市の「伊勢崎駅」までを結ぶ路線なのですが、浅草~東武動物公園間に「東武スカイツリーライン」という通称を付け、この区間では伊勢崎線という“本名”を伏せるようになりました(東武動物公園駅から先が「伊勢崎線」であるかのように案内しています)。また、同社の野田線はさいたま市大宮区の「大宮駅」から千葉県船橋市の「船橋駅」までを結ぶ路線ですが、全線で「東武アーバンパークライン」という通称を付け、野田線という“本名”を伏せています。
鉄道路線の正式な名称と区間は、電気車研究会が国土交通省鉄道局の監修のもと発行している「鉄道要覧」という書籍で確認できます。また、有価証券報告書を発行している鉄道会社であれば、有価証券報告書の「重要な設備の状況」の項目で路線の正式な名称と区間を知ることができます。
「山手線」を運営しているJR東日本は株式を上場しているので、有価証券報告書を発行しています。当然、重要な設備の状況の項目には同社が運営する鉄道路線が“正式な”名称と区間で記載されています。山手線を探してみてみると、こんな風に書かれています。
区間 : (品川)~(代々木)~(田端)〔新宿経由〕
営業キロ : 20.6km
駅数 : 14
ご覧の通り、“正式な”山手線は、「品川駅」を起点として「代々木駅」「新宿駅」を経て「田端駅」を終点とする路線です。全然グルグルしていません。「駅名のカッコ書きは何?」と思うかもしれませんが、これは別の路線の駅としてカウントされていることを意味します(どこの路線の駅なのかは後で紹介します)。
山手線の起点「品川駅」
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山手線の起点は、東京都港区にある「品川駅」です。品川区に所在しないのに品川を名乗っているのは、駅建設を巡る歴史的経緯によるものです(興味のある人は調べて見てください)。
JR東日本の品川駅は東海道線(※2)に所属する駅で、山手線との分岐駅です。「え、『横須賀線』や『京浜東北線』もあるよね?」と思うかもしれませんが、「横須賀線」の東京寄りと「京浜東北線」は東海道線の“線増部”、「横須賀線」の西大井寄りは東海道線の別ルート(通称「品鶴線」)という扱いで、厳密にはぜんぶ東海道線です。このことは、私たちが知っている「山手線」を知る上で重要なヒントになりますので、覚えておいてください。
(※2)「東海道本線」と言いたいところですが、JR東日本は有価証券報告書において本線の“本”を抜いて表記しているので、それに従います(以下同様)。
JR東日本の中枢「代々木駅」「新宿駅」
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山手線の途中経由駅として案内されている「代々木駅」と「新宿駅」は、JR東日本にとって重要な駅です。というのも、JR東日本は東京都渋谷区代々木に本社を構えているからです。住所こそ代々木ですが、最寄り駅はJR東日本の新宿駅だったりします。新宿駅が“巨大化”しすぎたせいで、下手に代々木駅から歩くよりも、新宿駅の「新南改札口」から行った方が近いのです。
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JR東日本の代々木駅と新宿駅は、いずれも中央線に所属していて、そこから山手線が分岐しています。「え、新宿駅には『埼京線』『湘南新宿ライン』もあるよね?」と思うかもしれませんが、「埼京線」と「湘南新宿ライン」は山手線の“線増部”(貨物線)で、山手線の構成要素の一部です。「埼京線」と「湘南新宿ライン」は、先に説明した複数の路線をまたがる「運転系統」を表す通称です。この辺りの説明は、次回以降の記事でしようかなと考えています。
中央線というと「東京から塩尻を経由して名古屋に至る路線」という認識が強いと思います。旧国鉄時代はこれで正解だったのですが、分割民営化で中央線の東京~塩尻間を継承したJR東日本は、発足後しばらくたってから東京~神田間は東北線、代々木~新宿間は山手線の線増部という扱いに改めました(鉄道要覧やJR東日本の有価証券報告書にも反映されています)。
一応、線籍を重複させることも可能で、中央線の塩尻~名古屋間を引き継いだ東海旅客鉄道(JR東海)は、東海道線と並走する金山~名古屋間を重複扱いとしています(※2)。なぜ、わざわざ重複を解消したのでしょうか…。
(※2)東海道線の「金山駅」は、JR東海が発足した後に開業しています(旧国鉄時代は東海道線のホームはなく、通過駅として扱っていました)。
実は重要な山手線の終点「田端駅」
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そして山手線の終点は、東京都北区にある「田端駅」です。先の新宿駅の所でちょっとだけ触れましたが、山手線は品川から田端に至る全線に渡って線増部としての「貨物線」もあります。その名の通り貨物列車が走るために作られたものですが、こちらの終点は田端駅のすぐ近くにある「田端信号場駅」となります(※3)。
田端駅も田端信号場駅も、駅としては東北線の所属になります。「あれ、『京浜東北線』は?」と思ったかもしれませんが、「京浜東北線」は東北線の“線増部”です。「お、さっき品川駅の段で『京浜東北線』は東海道線の線増部って言ってなかった?」と思った人、良く見ていますね。実はこのことも、私たちが知っている「山手線」を知る上で重要なヒントです。
(※3)田端信号場駅には東北線(貨物線)/山手線(貨物線)/常磐線(貨物線)が乗り入れています。通常は貨物列車のみ発着しますが、臨時で旅客列車がやってくることがあります。この際、運賃計算は田端駅とみなして行われます。
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田端駅の周辺には、JR東日本にとって重要な拠点も集中しています。その1つが「首都圏本部」です。
同社は組織の大幅な変更を数年がかりで進めている最中で、首都圏本部はかつての「東京支社」(もっと前は「東京地域本社」)を改組したものです。同様に「仙台支社」は「東北本部」として再編されており、新潟支社を除く全支社は、車両の管理やメンテナンス機能を首都圏本部か東北本部に移管しました(参考リンク)。
その前身の時代から、首都圏本部は首都圏のJR在来線の運行を広く管理しています。山手線の真の終点には、とてつもなく重要な拠点があるということです。
じゃあ、私たちのいう「山手線」って何なの?
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ということで、本当の山手線は品川駅を起点として代々木、新宿駅を通って田端駅に至る路線です。実はこうなるまでには紆余曲折があり、池袋駅から分岐する赤羽線(通称「埼京線」の池袋~赤羽間)が山手線の一部だった時期もありました。その辺の歴史も説明したいのですが、日が暮れてしまうので割愛します。
では、冒頭でも言いましたが普段私たちが「山手線」と思っている環状線は、一体ナニモノなのでしょうか。簡単にいうと、ホンモノの山手線を含む環状運転系統の通称で、以下の路線から構成されています。
東京~品川間 : 東海道線(電車線)
品川~田端間 : 山手線(電車線)
田端~東京間 : 東北線(電車線)
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「電車線とは何だ?」と思うかもしれませんが、旧国鉄(→JR)の首都圏・大阪圏エリアでは運行ダイヤが「電車」と「列車」の2種類に大別されており(違いの説明は割愛します)、電車線はもっぱら電車ダイヤの運行を行う線路となります。東北線の田端~東京間と東海道線の東京~品川間には、通称「山手線」用の電車線に加えて、通称「京浜東北線」の電車線も別途敷設されていて、田端駅と田町駅で相互を行き来できるようになっています。
JR東日本の電車の場合、運転台のモニターには「キロ程」(起点からの距離)が表示されますが、品川駅から「山手線」の外回り電車に乗ってそれを観察すると、面白いことが分かります。
品川駅の「0.0km」から、しばらくは山手線のキロ程を刻んでいくのですが、田端駅のホームの真ん中あたりで突然キロ程が「7.1km」になってしまいます。これは東北線の電車線のキロ程です。その後、キロ程はどんどん減っていき、東京駅のホームの真ん中当たりで「0.0km」になります。これは東北線と東海道線の起点にたどり着いたからです。そこからキロ程はどんどん増えていくのですが、品川駅のホームの真ん中あたりで突然キロ程がまた「0.0km」になります。山手線の起点に戻ったからです。
要するに、モニターのキロ程は正式な路線ベースで表示しているのです。
まとめ
実は山手線は環状線ではない――こんなことを知っていても、何の得にもならないと思ってます……が、こういうムダな知識って日常生活を楽しくするスパイスになることもあります。世の中、ムダを省く方向に進んでいるような気がしますが、ムダを知っていてこそ、ムダを省けるということもあるはずです。
皆さんも、「明日から使えないけど、知っていると何となく楽しいムダ知識」をどんどんため込みましょう。今からでも遅くありませんw