死者からのメッセージ・危険な香り そして・・・・・(ペルーその❾)
「記憶の断片」
ぺルーでの取材もそろそろ終盤。
スラムで生活する子供たちの取材で早朝でかける。
日本は真夏だがぺルーは真冬。朝は寒い。
スラム入り口付近の安全なところに取材車を止めスラムへと向かう。
入り口付近にはピラミッドのように積まれたごみの山があり、そのわきをスラムの山から流れる側溝がある。
そのゴミ山に近づいた私は、目に映った光景に思わず足を止める。
側溝に横たわり、朝の光に包まれるように光り輝く少年の死体がそこにあった。
ブリーフ一つで衣服をつけてない少年の白い体がゴミ山とは対照的で、輝いているように見えたのだ。
その少年は、傷や汚れもなく白く、まるで作られた人形のように見える。
少年の瞳と私の視線が交差する。
そして時が止まったようにその青く無機質な目玉の深い闇に私の意識は吸い込まれ、周りの景色から取り残されたように立ち尽くす。
そんな私にカメラマンのアントニオと大谷さんが声をかける。
大谷さん
「話には聞いていたけど子供の死体を路上で見るのは初めて。なんてこと。服も着ていないし」
アントニオ
「スラムではよくあるよ。服をつけてないのは他の子供たちが剥ぎ取り着るからさ。冬だから服はストリートチルドレンにとって貴重品だからね。靴もそうさ。
この子は飢えか、病気かな?ボンドやシンナーの過剰摂取で凍死したのかも・・・」
そういいながらアントニオは撮影し始める。
「コンドー、レポートしなくていいのか?死体の前で。」
現実の映像だけで十分だと思い
私「ここはいいよ。このままの撮影で」
付き添いで来てくれたペレイラ神父は少年に祈りを捧げ
「以前は教会に安置していたが処置に困り、今は当局にまかせてある。
しばらくすれば警察か保健所がこの子を引き取りにくるはず。
冬は子供だけでなく大人の行き倒れも多くて・・・・」
悲しげな表情で話してくれた。
私は、少年の瞳に覗いた深い闇を胸にしまい込みスラムに入る。
そこから少し離れた路上では3人の子供たちが寝ている。
そしてスラムの廃墟にも子供たちが寝ていた。
朝の6時、そろそろ起きだす時間。
彼らの朝は早い。冬の寒さのせいもあるが、通勤時間の始まる街に繰り出し働くからだ。
市場での運搬作業、街での靴磨きや車の洗浄、タバコ売りなど。なかには引ったくりや置き引き、スリを生業にしている子供集団もいる。
子供のインタビュー
「こんな生活がいいとは思わない。早く逃げ出したいけどどうしょうもない。暖かいところで寝て美味しいものを食べたい。」
「親は死んだのか、気が付いたらいなかった。どうしょうもなくてここにきた。仲間がいるから」
「ボンド吸うけど撮影する?撮影するならお金ちょうだいよ」
・・・・・・・・・・・・
大谷さんは通訳をしながら涙ぐむ・・・・
アントニオ
「これが今のぺルーだよ。日本では信じられないだろう」
大谷さん
「母が苦労しながら援助活動するのをこれで理解したわ。これまでその手伝いは面倒だと思っていたけど・・・・・」
スラムの取材中、昨日と同じように監視されていることに気付く。
遠目に二人組の男性がずっと我々を見ているのだ。
一通りスラム取材を終えてペレイラ神父にお礼をつげると
ペレイラ神父
「センデロの件だが、連絡できる人間にはコンドーのことは伝えてある。
スラムに入っていることから、彼らはすでにコンドーのことを知っていて日本人であることも知っているようだ。
私が連絡している人間はそこらの犯罪集団の輩ではないが、危険な思想の連中であることにはまちがいない。
覚悟しておくように。
取材できるかどうかは難しいことなので時間がかかるから待つようにと言っていた。ダメでも書面か何かのメッセージをよこすと言っていたので。
本当にいいのか?
取材をやめると伝えるのは簡単だからいつでも言ってくれ」
私「神父さん、本当にありがとう。やっかいなことを頼んで。
でも実現の可能性があるなら待ちます。取材できるならやります。
そして覚悟もしてます。」
そばで聞いていたアントニオ、
いつもの強気な表情とは違い、弱々しく心配そうに
「コンドー、本当に取材するのか?お前は日本人で終われば日本に帰る・・・・。
でも俺とセサールはここにいるから、いつセンデロに襲われてもおかしくない。彼らは家族をも狙う連中だ。
もしセンデロの取材ができるとなった時には考えさせてくれ。
そして俺とセサール抜きでできる取材方法も考えておいてくれ。
頼むよ。他の取材ならなんでもやるから。」
セサールは終始無言だったがアントニオと同じ思いなのは痛いほどわかる。
私「わかった。その気持ちはわかっていた。君らに迷惑をかけたくない。
取材可能になった時にはどうするか考えるから心配するな。」
大谷さん
「近藤さん、センデロの取材はそんなに価値があるの?する意味はあるの?JICAの人たちを殺した連中よ。」
私「センデロ取材に価値があるのかどうか、私にも正直わからない。
取材できればスクープになるのはわかっているけど、そのためだけにやろうとも思ってない。私個人の思いなのかどうか。
少しでも可能なら挑戦したい。自分の感を信じて」
大谷さんの問いにそう答えるのが精いっぱいの私。
なぜセンデロの取材が必要なのか?それは私の思いだけのものなのか。
その答えは全てが終わった時にみつかるかもしれないし、そうしなければ見つからない答えもあると考えるだけだった。
そうした思いを闇が包み込むように日が暮れホテルへの帰途につく。
そして心の奥にしまったはずの死体となった少年の瞳が私を飲み込んでいく。
ぺルー その➓に つづく
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