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AI機能をもつSaaSの営業活動で大切にしたいこと #SaaSLovers Day1
#SaaSLovers というブログ企画を主催する小松です。本日から18人でブログ企画を始めていきます。今回で2年ぶり7回目、こちらは初日の記事です。
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*愛好家の皆様については、XとFacebookの投稿をご覧ください。
AI機能を持つSaaSの営業活動
近年、多くのSaaSがAIを搭載するようになり、AIが当たり前の機能になりつつあります。私がSaaS業界で働き始めたのは遡ること13年前ですが、当時と比べると提供機能が劇的に進化しました。AI機能は強力ですが、営業現場では「AIがあるだけで売れる」とは限りません。むしろ、「AIが裏側で動いていることをどう価値として伝えるか」 が重要だと感じています。
私は現在DoubleVerify(ダブルベリファイ)という会社で働いており、AI機能を持つテクノロジーを販売しています。日々の営業活動でつい「このAI機能がすごいんですよ〜」と説明してしまうことがあります。自身の反省も踏まえて、このブログで少し振り返って見ようと思います。結論、以下の3点をあらためて意識する必要があると感じました。
AIのブラックボックス問題:顧客は「AI機能がどのように意思決定しているのか」を理解できず、不安を抱える。
「AI vs 人」の心理的ハードル:AI機能が自身の業務を置き換えるのではないかという懸念がある。
導入ROIの証明:AI機能の導入がどのようなビジネスインパクトをもたらすのか、定量的なデータで示す必要がある。
最初に現在どういうサービスを営業しているのか簡単に紹介した後に、上記3点について振り返ってみます。
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AI機能と提供価値
以下で今の会社がどういうSaaSを提供しているのかを少し紹介します。大きくDoubleVerifyとScibidsという2つの製品をクロスセルしています。
DoubleVerifyについて
DoubleVerify(社名でありサービス名)は、ブランド毀損リスクを低減し、広告掲載面の透明性を高めるためのAIベースのアドベリフィケーションツールです。(マーケティング業界におけるデジタル広告業務での計測・分析サービスというジャンルです)特に、Universal Content Intelligenceと呼ばれるAIエンジンを活用し、動画内の物体、音声、字幕、テキストなどのコンテンツを分析して広告掲載面の安全性、適合性を評価します。これにより、広告主はブランドセーフティを確保し、広告の透明性を向上させることができます。提供価値は以下です。
ブランドセーフティの担保:広告が不適切なコンテンツ上に掲載されないようにコントロールする(わかりやすくいうと、「ガーシー」みたいなチャンネル動画を不適切と判定するコンテンツ解析機能を持っています)
無駄な広告費の削減:フラウド対策として、ボットや不正インプレッションを排除した広告配信を実現する。(機械ではなくユーザー(人間)が閲覧するインプレッションに広告を掲載する)
広告効果の向上:信頼できる、相性の良い広告枠への掲載比率を高めることで、広告効果を高める
Scibidsについて
クロスセル商材として、Scibids(サイビッズ)という製品の提供もしています。Scibidsは広告入札(bidding)を最適化するAIプラットフォームで、広告運用のKPI(CPM、CPV、CPA)を改善することで広告ROIを向上させます。広告キャンペーンごとにカスタム入札AIアルゴリズムを作成し、広告主ごとに最適なAI主導の入札戦略を構築できます。
入札の自動化/最適化:人間の手作業では追いつかない頻度・精度でリアルタイムに入札調整を自動化。(24時間、土日祝、1日数十回の調整 etc)
パフォーマンス向上:広告主の目標に合わせたカスタマイズ可能なAIモデル。(1st partyデータなど外部データの学習による最適化)
運用の効率化:入札調整、配信ペーシング管理をAIに任せることで、広告代理店様や広告主様がより戦略的な業務に集中できる。
それぞれのAI機能については、以下のブログ記事にて詳細を記載しております。
筆者の小松は大手企業(エンタープライズ)向けの営業活動を担当しており、以下の話はその前提の内容となります。
私がAI機能を営業する上で、最近考えていることは以下の3点です。
①AIのブラックボックス問題
AIを活用したSaaSの最大の課題のひとつは、顧客が「AIがどのように意思決定をしているのか分からない」という点です。AIのアルゴリズムは複雑で、特に機械学習を活用している場合、具体的な意思決定プロセスが説明しにくいことが多いです。これらを解決するためには、以下を意識することが重要だと感じます。
解決策
AI機能の仕組みについて、できる限りの説明を行う。(透明性の担保)
AIの判断基準や根拠を可視化し、レポートやダッシュボードを通じて顧客に説明する。
例:DoubleVerifyの「Universal Content Intelligence」で、広告掲載面のリスク判定がどのような要因で決定されるのかを説明、可視化。
事例ベースの説明
AIがどのように意思決定しているのか、具体的なケーススタディを通じて説明する。
例:Scibidsでは、事前にAI解析とスコアリングを行い、KPIの改善自信度をスコアで提示。またスコアが良くなる状態をパターン化。過去の入札データを分析し、「AIによる入札最適化の前後でどのようにパフォーマンスが向上したか」を示す。
AIの判断を補完する「人間のフィードバック」
AIの予測や判定結果をそのまま適用するのではなく、人間が調整できるオプションを提供する。
例:ScibidsのAI入札では、広告運用担当者がAIパラメータを微調整できる設計になっている。またDoubleVerifyの機能でもリスク判定のレベル感を広告主様・代理店様側にて選択可能。
以上です。ブラックボックスの中身をできる限り伝えることで、お客様の不安を払拭することが可能です。AIがあろうとなかろうと、Software as a serviceのサービス部分の重要性は変わっておらず、むしろAIのブラックボックスを解説する丁寧さが更に必要になっていると思います。AI機能のアカウンタビリティ(説明責任)の高まりとも言えますね。
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②「AI vs 人」の心理的ハードル
各種業務フローをテクノロジーベースではなく人力で解決しているケースが依然として多く見られます。企業の雇用維持の観点から、「AI機能が人間の仕事を奪うのではないか?」という懸念もあると思います。特に私が働いているデジタル広告業界の現場では、広告運用業務はこれまで人間の経験と勘に依存してきた部分が多く、AIの導入に対して抵抗を持つケースも少なくないと思っています。これらを解決するためには、以下を意識することが重要だと感じます。
解決策
「AIは人間の仕事を補完するもの」であることを強調
AIは単独で運用するものではなく、人間がより戦略的な業務に集中できるようにサポートするものだと伝える。
例:Scibidsはルーチンワーク(入札調整のための管理画面設定など)を自動化する一方で、全体戦略の設計やクリエイティブな判断は依然として人間の役割が必要。
導入企業の成功事例を紹介
「AI導入後に広告運用業務がどのように改善されたか」という具体的な事例を示す。
例:DoubleVerifyの導入事例では、「ブランド毀損リスクを低減することで、広告主様のご要望にお応えしつつ、広告代理店様では不適切掲載面確認の工数削減を行うことができる」といったデータを提示。
顧客向けのトレーニングとサポートを充実させる
AIツールの使い方を学ぶことで、広告運用業務に携わる方々がAIをより効果的に活用できるようにする。
例:この点は、e-learningのプラットフォームも提供していますが、自主学習コンテンツは全然足りていないなあと思っています。
以上です。AI利用は不可逆なので、人がフォーカスする業務を整理し、アシストしてあげることが重要ですね。
③導入ROIの証明
SaaSであることは変わらないので、投下予算に対する導入価値、プロジェクトROIの算定と証明が必要となってきます。当社の製品はAI機能が製品価格に組み込まれていますが、SaaSによってはAI機能をオプションでアップセルポイントにおいている会社もあるでしょう。また、AI機能はクエリ課金のケースも多いと思うので、中長期的な稼働ボリュームも試算しながら、導入価値を証明していく必要性があります。
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ちなみにDoubleVerifyも広告費やCPMに連動する従量課金モデルで提供しており、以下を意識することが重要だと感じます。
解決策
ビフォーアフター/ABテストのデータ提示
AI導入前後やABテストでパフォーマンス指標(リーチ数、リーチ単価、クリック率、コンバージョン率)を比較する。
例:Scibids導入後、運用工数が30%削減し、リーチ数が20%向上した事例を提示する etc *数字はあくまで例えです。
顧客事例の案内
既存顧客の成功事例をケーススタディとして紹介し、信頼性を高める。
例:DoubleVerifyを導入したブランド企業が「不適切面掲載率を10pp改善できた、それを広告費価値に換算すると〇〇〇万円」といった具体的な結果を案内。
AIの貢献を可視化するレポート提供
AIがどのように成果を向上させたのかを定期的なレポートで示す。
例:これはまだDV社ではできていませんが、どれぐらいのデータを解析しているか、それを手動で解析するとどれぐらいの工数になるのかを可視化したら役立ちそうです。例えば、1日100万インプレッションの場合、100万回AIがコンテンツ解析していることになります。手動で目検チェックする場合、1回あたり1分としたら100万分=16666時間分の工数がかかるであろう分析作業を、AIが自動化している計算になります。(もし皆さんが提供しているSaaSがこういうアプローチをとっていればぜひ教えてください)
顧客にとってAIが動いているかは関係ない
以上、振り返りをしてみました。なんだかSaaS営業上当たり前のことばかりを列挙してしまいました。。。重要なことは変わらず、「AIの有無」ではなく、「顧客の課題をどう解決するか」という視点です。多くの顧客は、AIがどのように動いているかよりも、「結果として何が得られるのか?」 を重視します。例えば、「ScibidsのAIがどのように入札最適化を行うか」よりも、「広告費のROIが向上するのか?」が本質的な関心事です。「DoubleVerifyのアルゴリズムがどのようにブランド毀損リスクを検出するか」より、「実際にブランド毀損リスクが低減されるのか?」の方がはるかに重要です。
「当社のAIは最先端の機械学習技術を用いて、リアルタイム分析を行います」ではなく、「このツールを導入することで、無駄な広告費を最大10%削減できます」
「AIが自動で広告入札を最適化します」ではなく、「手動では見逃してしまう単価調整の機会を捉え、最適なタイミングで入札を調整できます」
など、実現できることベースでの案内方法が大事だと感じました。とはいえAIがどう動いているかを説明して不安を払拭する必要もあると思います。AIの技術と課題解決がどのように接続しているのかをわかりやすく説明して、裏側のプロセスをご理解いただいた上で、サービル利用から得られる成果を案内したいですね。
まとめ:AI機能を持つSaaSの営業活動で大切なこと
以下簡単ですが本ブログ記事の内容をまとめます。
1. SaaSがAI機能を持つことが増えているが、本質を忘れないようにしよう
AI機能を使うこと自体が目的になっていないか? 重要なのは「AIの有無」ではなく、「顧客の課題をどう解決するか」。AIは手段であり、顧客が求めるのは成果だという視点を忘れない。
2. 裏側のAI機能と課題解決がどう接続しているのかをシンプルに案内しよう
「このAIは○○できます」ではなく、「このAIを使うと△△の課題が解決できます」と伝えよう。まずは「何がどう良くなるのか」を明確にし、技術の説明はその後で。
3. 導入成果は引き続きROI試算した上で顧客の検討をサポートしよう
AIの仕組みより、導入後の成果が重要。具体的なROIを示し、顧客が判断しやすい情報を提供しよう。
以上です。最後までお読みいただきありがとうございました! #SaaSLovers 2日目は、LayerX西村さんの記事です!「CSからISへの転換で見えたもの〜ISの凄さと共通して大切なこと〜」というテーマの予定とのことです。西村さんは古巣シナジーマーケティングの後輩でもあります。どうぞお楽しみに!
おわり
*SaaSLoversの過去記事は以下のマガジンからご覧いただけます。全部で87本ありますのでお時間ある際にぜひ!
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