#36薬剤師の南 第7話-3 ヒーローの南(小説)

 當真さんはそれを確認してから待合室の薫を呼ぶ。

「薫さん、今日は右の足首の怪我?」

「はい。アクションのレッスンで痛めちゃって」

「アクション?」

「役者やってるんです。動ける俳優を目指して色々と挑戦してます!」

「おー、役者さんなんですか」

 とはいうものの、薫が役者としての本格的なキャリアを歩み始めてからまだ一年も経っていない。どう考えても素人より多少はましという程度だ。身内として釘をささずにいられなかった私は、
「一応ですけどね。い・ち・お・う」

「お姉、話の途中なんだから黙ってて!」

 私の側にいた何人かが軽く噴き出した。

 當真さんが話を続ける。

「今回の貼り薬ですが、一日一枚貼れば十分です。喘息とかの持病があったり、今まで薬で喘息を起こしてしまったことはないですか?」

「ありません……あれ? 喘息って、何か関係があるんですか?」

「喘息の患者さんがこの貼り薬を使うと、喘息の発作を起こしてしまうことがあるんです。そういうことが起こらないようにここで確認させてもらっています」

「へぇ、そんなことがあるんですね」

 私の後ろでは、さっき休憩に入ったばかりの呉屋さんまでが様子を見に来ていた。

「ずいぶん勢いのいい声がすると思ったら、妹さんですか。しかも俳優さん」

「ただの観光に来たはずなんですが、職場まで観光スポットにされるとは思ってませんでした。羞恥心に震えてます」

「ロキソプロフェンって、何だか稽古事の効果が上がりそうじゃない?」

「どうしてですか? よく意味がわからないのですが」

「ロ『キソ』プロフェンだからね。何事も基礎は大事……うん、無理がありすぎたか」

「ハハ……」

 本日二度目の苦笑いが漏れてしまった。

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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