黒坂礁午(Shogo Kurosaka)/弱塩基性みりん

薬局薬剤師を題材にした長編医療小説『薬剤師の南』を執筆中です。(第一部完結・7万字程度…

黒坂礁午(Shogo Kurosaka)/弱塩基性みりん

薬局薬剤師を題材にした長編医療小説『薬剤師の南』を執筆中です。(第一部完結・7万字程度) 小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n7736gi/

マガジン

  • 薬剤師の南 [沖縄×薬局薬剤師 オリジナル小説]

    幼少期に沖縄から来た女性薬剤師に影響された南依吹(みなみいぶき)は薬剤師免許を取得し、沖縄の田舎町の薬局に新人として赴任する。 沖縄から来た薬剤師が依吹に残したのは、生薬を擬人化したキャラクター図鑑。 オタク女子でもある依吹には、そのキャラクター達が今も頭の中の『友達』として生き続けている。 故郷から遠く離れた地で出会う、様々な患者や薬剤師たち。 依吹を見守り支える人々の出会いと、未知なる土地での過酷な試練は、表裏一体。 彼女はそこに、どのような風を運ぶのだろうか。 登場人物などのまとめはこちら→https://note.com/shogokurosaka/n/n90d8a2ae616f ※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

最近の記事

  • 固定された記事

#1薬剤師の南 プロローグ(小説)

 私が幼いころ、私の家には見知らぬ女性が住んでいた。  彼女のことを思い返すと幽霊か、はたまた空前絶後の不審者か、などといった切り口から語ることもできるだろうが、彼女はあまりにも自然に我が家の家族の一員として立ち振る舞っていたので、その時の私は何の疑問も持っていなかった。  彼女はよく私の遊び相手をしてくれた。今でも特に記憶に残っていることといえば、ヘアゴムやヘアピンをたくさん使って度々私の髪を色々といじっていたこと。母があまり私の髪型に強いこだわりを示さない人間だったの

    • 知識ゼロのぼっちが同人誌即売会に出店してみた @ 文学フリマ東京

      「採算がとれなくても一度は自分の同人誌を売ってみたい!」という思いが前々からありました。 そして去る2020年11月の文学フリマ東京にて、拙作の沖縄×薬局薬剤師を題材とした『薬剤師の南』の第一部の内容をブラッシュアップして印刷し、出店にこぎつけることができました。 ただ、同人誌即売会はサークルとして複数人で出店されている方が多く、私のような身近に創作仲間が皆無なぼっち人間が個人で出店する場合は、どのようにすれば出店ができるのか、という情報が少なく、当日まで苦労の連続でした

      • #70薬剤師の南 早雪 前編6

         薬剤師法第二十一条、「調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあった場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない」。これは例えば、災害などで必要な医薬品の調達が不可能な場合などの状況でなければ患者からの処方箋を応需し、調剤しなければならないという条文である。  つまり、薬局で処方箋を出して調剤薬を要求する――この行為で、薬局側の私達がシロを薬局の外まで追い出す口実はなくなってしまったわけだ。  怪訝な様子の新垣さんが処方箋を受け取ってレセコンに入力を始めた。その間シ

        • #69薬剤師の南 早雪 前編5

           ミーティングがあった翌日のこと、 「南さん、これは駄目なんだ」  と、投薬台にいた當真さんが監査の私のところへ薬を持ってきた。春ごろ私が手間取った、池上さんの薬だ。結局のところ、あの後池上さんは数度来局したが、精神疾患でもパーキンソン病でもない様子だった。 「何か違っていましたか?」 「このプレガバリン、今回から新しく処方されてるでしょ?」 「はい」 「だとすると、どうしてこれが駄目なのか知ってる?」 「……いえ」 「プレガバリンの開始量は、一日二回で、一日

        • 固定された記事

        #1薬剤師の南 プロローグ(小説)

        マガジン

        • 薬剤師の南 [沖縄×薬局薬剤師 オリジナル小説]
          72本

        記事

          #68薬剤師の南 早雪 前編4

           スノーマリン薬局では月一回、就業時間後に従業員を集めて二階の小さな会議室でミーティングが行われる。その場で社長が開口一番に、 「まず、先日来た私の娘について皆さんに謝らなければいけません。私の個人的な問題で皆さんの仕事の邪魔して、不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした」  そう言って深く頭を下げた。 「社長の娘さんですから、特に問題ないだろうと思ってこの前は社長室に通してしまったのですが……彼女、すごい権幕でしたね」  當真さんが言う。當真さんはシロが

          #68薬剤師の南 早雪 前編4

          #67薬剤師の南 早雪 前編 3

          「……また長引くだろうから、一応知らせに来ただけ」  シロは少し言葉に詰まったようだった。  社長は深く溜息をついた。 「入院したのは父さんとしても心が痛む。だけれども、もう母さんは母さん自身の人生を生きているんだ。今さらこっちの顔なんて見たくないだろう。だから父さんにできることはもう何もない。お前はそうやってこの先もずっと、母さんに何かあるたびに文句を言いに来るのか?」  ――つまり、シロは社長の、娘ってこと? 「……新人を採用したんだってね?」 「今度は何だ?」

          #66薬剤師の南 早雪 前編 2

          「失礼します」  夕刻、私は薬局の二階にある社長室のドアの付近をノックした。社長室のドアは従業員の個別の面談や来客がない限りは常に開けっ放しになっている。社長だからといって社員との間に壁を作らないように、という社長のポリシーのため、このようにしているという話を以前に聞いた。  社長は自身の机のパソコンで何かの資料を作っている最中のようだった。 「ああ、お疲れ様南さん。下の忙しさはどうだい?」 「今はちょうど患者さんが途切れたので、資材を補充しに来ました」 「いつもあり

          #66薬剤師の南 早雪 前編 2

          #65薬剤師の南 早雪 前編 1

           この年一番の威力を持つ台風が沖縄を直撃した。  正午近くだというのに空は真っ暗。切りつけるような軌道を描く雨、地面から激しく跳ねる水しぶき、そして草木が暴風で絶え間なく横にしなる。そんな光景が目の前に広がっているせいか、東京の実家でかつて度々経験した強力な台風よりも数段は激しいもののように感じた。今日がオフの日で助かった。たとえ車の移動であろうと、この有り様では通勤も困難だ。  母や妹の薫からは私の身を案じるLINEが来たが「大丈夫」とスタンプを返した。とりあえず私は家

          #65薬剤師の南 早雪 前編 1

          #64薬剤師の南第二部・プロローグ3(終)

          「例えばどんな? 人間一人の存在を隠すのに、前向きな理由なんてあるの?」  桂皮が芍薬に言うと、 「『あの人』はきっと依吹ちゃんだけに見える妖精さんだったんですよ」 「……はい?」 「依吹ちゃんだけに見えた妖精さんだったから、誰も覚えていない、というのはどうでしょうか?」  芍薬の発言に一同は絶句する――考えたのは私なんだけどさ。 「じゃあさ、写真に映ってのるは何? どう見て他の人間に認識されてるようだけど? 双子の姉妹? ドッペルゲンガー? クローン人間?」

          #64薬剤師の南第二部・プロローグ3(終)

          #63薬剤師の南第二部・プロローグ2

           テーブルに座ったのは桂皮、釣藤鈎、芍薬、麦門冬――いつもの四人だ。  そこに私が座り、見た目は一人きりだが実質五人、しかし傍からみれば滑稽な会議が始まる。  桂皮が話し出す。 「で、あんた、本当に『あの人』の顔くらいしか覚えてないわけ?」 「うん、それ以外は、まるっきり……」 「ありえない。あれだけ遊んでもらったのに?」 「覚えてないものは覚えてないんだからしょうがないでしょ?」 「ハァー、薄情だねぇあんたも」 「二人とも落ち着いてください。覚えていないのならこ

          #63薬剤師の南第二部・プロローグ2

          #62薬剤師の南第二部・プロローグ1

           かち、かち、かちと時計の秒針が真夜中の部屋に響く。  どれくらいの間、そうしていただろうか――私は腕を組んで、眼前の冊子の裏表紙をずっと眺めていた。  デスク上のその冊子は私の勤務先の薬局の片づけで見つけた銘里市薬剤師会の古い会報だ。裏表紙には私が小さかったころ、ごくわずかな間だが共に生活をした薬剤師の『あの人』が、県央の『尊聖まえしろ総合病院』の薬剤部の一員として集合写真に映っているのだ。薬剤部らしき部屋の斜め上から俯瞰したアングルで撮られたその写真は薬剤師達が一列に

          #62薬剤師の南第二部・プロローグ1

          #61.5薬剤師の南 第二部 登場人物・組織・団体・地域など

          このページでは第二部に向け、第一部までで明らかになった情報を含んだ登場人物等の紹介を行います。 第一部を未読の場合はネタバレにご注意ください。 以下、空白改行を挟み、本文が始まります。 ☆ 登場人物 ・南依吹(みなみ いぶき)  (24・女) 主人公。東京生まれ東京育ちの新卒の薬局薬剤師。幼少期にとある沖縄出身の薬剤師と出会ったことがきっかけで、新人薬剤師として沖縄の田舎町・銘里市の㈱スノーマリン薬局にIターン就職をする。 オタク趣味を持ち、特技はイラストを描くこと。高校

          #61.5薬剤師の南 第二部 登場人物・組織・団体・地域など

          #61薬剤師の南 第9話-11(終) 隠れ家(小説)

           慌ただしい一日も終わろうとしていたころ、社長から、 「悪いけど二階のロッカーの中にある古い書類の整理をお願いできるかな? 事務さんにやってもらいたいんだけど今他の仕事をやってもらわなきゃいけなくなってさ」  と仕事を頼まれ、私はそのロッカーの前にいる。 「はあ……疲れた……ねえ釣藤鈎、疲れに使う漢方っていくつかあったよね?」  私の頭の中にいる釣藤鈎に話しかける。 「――働いて疲れただけなら漢方に頼らないで、早く目の前の仕事を終わらせて、帰って、寝る。それが一番で

          #61薬剤師の南 第9話-11(終) 隠れ家(小説)

          #60薬剤師の南 第9話-10 隠れ家(小説)

          「あ、スノーマリン薬局の當真ですが、糸数さんは病棟ですか? 繋いでもらいたいんですが」 「……お待たせしました、糸数です」 「もしもし、當真です――ちょっと聞かせろよ」 「いきなり何だ」 「今日の昼、うちの南があんたにした、シロアリ防除剤の患者さんの疑義のことだよ。そんな薬の吸入の可能性がある時点で再受診をするように、そっちが対応すれば十分だったはずだ。なぜあれ以上の調査をうちの南にやらせた?」 「そんな話か。シロアリならば当然殺虫剤だ。ならば回答としてはせめて有機

          #60薬剤師の南 第9話-10 隠れ家(小説)

          #59薬剤師の南 第9話-9 隠れ家(小説)

           夕方、ようやく患者さんの出入りが止まり、薬局の中には職員のみになった。 「殺虫剤の中毒かもしれない患者さんに当たっちゃうとは……めったにない経験だったねぇ」  と社長。 「薬局で対応するのはキツすぎますよ……あれは」 「まあ、うまい具合にできてたみたいだから僕は口を挟まずに見てたよ。いやー、ほんとうちに来てくれてありがとうね、南さん」 「ああ、そういえば、當真さんが糸数さんのことをすごく警戒してたような感じでしたけど、社長は何かご存じですか?」 「うーん、糸数さん

          #59薬剤師の南 第9話-9 隠れ家(小説)

          #58薬剤師の南 第9話-8 隠れ家(小説)

           震える親指を使って電話のボタンを押し、糸数さんと電話越しに再び対峙する。 「はい、薬剤部の糸数です」  さっきと全く同じ応答に緊張が高まる。下手をすれば私もドクターのお世話になってしまいそうなくらい胃が締まるのを感じた。  知念さんの症状を再度説明し、そこに自分が調べたことを付け加える。 「――レバーの大量の飲食をしたことによるビタミンAの過剰摂取と、約一週間前にシロアリの防除作業をしたことで、カルバメート系の物質のフェノブカルブを吸入してしまった恐れがあります。頭

          #58薬剤師の南 第9話-8 隠れ家(小説)