#63薬剤師の南第二部・プロローグ2
テーブルに座ったのは桂皮、釣藤鈎、芍薬、麦門冬――いつもの四人だ。
そこに私が座り、見た目は一人きりだが実質五人、しかし傍からみれば滑稽な会議が始まる。
桂皮が話し出す。
「で、あんた、本当に『あの人』の顔くらいしか覚えてないわけ?」
「うん、それ以外は、まるっきり……」
「ありえない。あれだけ遊んでもらったのに?」
「覚えてないものは覚えてないんだからしょうがないでしょ?」
「ハァー、薄情だねぇあんたも」
「二人とも落ち着いてください。覚えていないのならこれ以上言い合いをするのは無意味です」
釣藤鈎が私達を静止する。
「釣藤鈎に同意です。桂皮は少し自重してください」
「ケッ」
と麦門冬もなだめに入り、桂皮がふてくされてそっぽを向いた。
次に口を開いたのは芍薬。
「そもそもどうして、お父さんとお母さんは『あの人』のことを隠してるんでしょうねー?」
「ムショにでもぶち込まれたんじゃない?」
桂皮が投げやりに言う。
「……むしょ?」
刑務所――刑事罰を受けた可能性、か。
「ヤバい調剤過誤とか、職場の薬の横流しとかさ。理由なんて色々あるじゃんこの仕事。で、恥さらしの存在になったからあんたのご両親は『あの人』の存在を抹消――だいたいこんな感じじゃない? あんたも他人事じゃないから気ぃつけなさいよ」
「う……」
考え出されたこの可能性と、自分自身が将来負いかねない責任――薬を盗んで転売したりなんてもちろんしないけど、前者についてはいつでも起こり得ることだ。それに私は怯んだ。
「皆、そんなこと言わずに、もっと前向きに考えて見ませんかー?」
芍薬が言った。
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