#41薬剤師の南 第7話-8 ヒーローの南(小説)
昼食の間、シロが薫に興味津々といった感じで様々な質問をぶつける。
「妹ちゃんは大学入る前はどんなことやってたの?」
「中学と高校は新体操のレッスンに行ってました。あと、高校からは演劇の指導をしてくれる先生の教室にも行ってて……」
「学校の部活じゃなくて?」
「大会に出るのが目標じゃなかったので、それを目指してる他の子に迷惑をかけられないですよ」
「ん? 待って。そもそもヒーローものに出たいっていうなら、空手とかやったほうが近道だったんじゃない?」
「格闘技をやってると逆に型どおりの動きになっちゃって、格闘のお芝居の見栄えが悪くなっちゃうってことを小学生のときに色々調べて知ったので、だったら全身をうまく使えそうなことを早いうちにやっておこうってことです。実際、事務所に入るオーディションに役に立ったんですよ。特技を見せるときに、体幹をぶらさないハイキックを連続して見せたら、それが合格の決め手になったみたいで」
だがそれでも、今の薫の立場は研修生。つまり、拾ってもらったというレベルの合格だった。理由は私でも指摘することはできる。いわゆる役者としてのオーラというやつだ。東京に住んでいるときに偶然一度だけドラマの撮影現場に出くわしたことがあるが、人の群れからちらりと見えた何人かの俳優はそこらの一般人にはない煌びやかな雰囲気を纏っているのを強く感じた。薫にはそういうものがない。体の柔軟性があって多少運動が得意だが、役者としての素材はとことん凡庸、そんな十八歳の女子にすぎないのだ。
出された食事を食べ進めていると、唐突に薫が箸を置いた。
「何だか食べられない。少し気持ち悪くなっちゃった……私もういいや。お姉達、残ったの食べる?」
そばはまだ半分くらい残っている。薫は大食いとまではいかないものの体育会系一筋で生きてきたこともあって、その辺の平均的な女子よりは食べる量は多い。
「妹ちゃん、暑さにやられちゃった?」
「そうかもしれないです。もしかして、昨日ニュースでやってた食中毒にやられたかも……」
「あれ弁当って言ってたし、ここがそうだったら今日は営業してないでしょ。お店に謝れ」
と私は軽く毒づく。
結局薫が残した沖縄そばはシロと私でつつき合って出来る限り残量を減らそうということになった。
食べている途中にシロが、
「そういえばさぁ。訊こうと思ってたんだけど、依吹は銘里のどこの薬局にいるの? この前の研修で聞き忘れちゃってさぁ」
「スノーマリン薬局。恵ちゃんのドラッグコーラルがすぐ近くにあるところね」
「銘里記念病院の門前?*1」
「そうそう、そこ」
「……ふーん」
私のお腹がかなり張ってきたころ、唐突に薫のスマホの着信音が鳴った。
[*1 門前=門前薬局の略。病院の近くに立地する調剤薬局のこと]
※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。
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