#47薬剤師の南 第7話-14 ヒーローの南(小説)

「お、出てきた。あの子でしょ?」

 恵ちゃんの声につられてステージを見ると、上手側のテントから薫が姿を現し、長机に着席してスタッフの男性と何やら話を始めた。

 黄色のシャツとオレンジのスカート。シンプルだが目立つ衣装だ。そして前髪には星の装飾が施されたヘアピンが二つ。この位置から見える大きさならばヘアピンというより、もはや髪飾りだ。

 そして表情は笑顔。実際はガチガチに緊張しているのかもしれないが、あれは新体操で鍛えた技術だ。上辺を取りつくろうのはお手の物だろう。

 ふいに、後ろから軽く引っ張られた。私の背中を摩耶ちゃんが掴んでいて、空いているもう片方の手で一組の父子を私が立っていた場所へ誘導する。父親は軽く会釈して、男の子の手を引いて前に進んだ。

「こういうのは、私達は下がって見よう。ね?」

「そうだね」

 それに、薫から私達が見えてしまうとかえってプレッシャーをかけてしまうかもしれない。いずれにしろ後ろにいる方が賢明だろう。

「今日は光彩戦士ライトセブンズ・ファミリーステージに来てくれてありがとう! 始まる前に、来てくれたみんなにお願いが――」

 上手の小さな階段を上がり、ゲート状の書き割りの裏から姿を見せた薫の声が、スピーカーを通して会場中に響く。

(始まったか)

 後は薫しだいだ。

 うまくいく――私にはそう信じるしかない。

「頑張れ……」

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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