#51薬剤師の南 第9話-1 隠れ家(小説)

「続いてはこちら。ビタミンAの摂りすぎに専門家や関連団体から警鐘。最近SNS上で目立つ、ビタミンAを多く含む食品やサプリを摂ることで疲労の回復や美肌効果があったという投稿。しかしこの話題、専門家から次々と疑問の声が上がっています――」


 患者が途切れて仕事の手が空き、薬局のテレビから流れるワイドショーに目が留まる。


「最近多いですよね、これ。ツイッターでよく見ます」
 同じく手を止めてテレビを眺めていた當真さんに話を振る。


「そうなの?」


「當真さんはツイッターは使ってないんですか?」


「特にネットで言いたいこともないし、面倒だから私はノータッチ。ネットのニュース記事は見るから、こういうことが起こってるってのは知ってるけどね」


 このビタミンAのムーブメントが始まったのはだいたい一ヶ月ほど前で、誰がこんなことを最初に言い出したのかは判然としていない。ツイッターかもしれないし、無数に乱立したまとめブログのいずれかが発信源なのかもしれない。

 特にここ最近の一週間は『ビタミンAを摂ろう』だの『ビタミンAの過剰摂取はやめよう』とかいったハッシュタグをつけた単語が頻繁にトレンドの上位に入り、両者が延々と不毛な反駁を続けている。

「これは放っておくとヤバい奴だよねー。摂りすぎが長引くとやっかいなことになりかねない」


「え、ヤバいってマジな話っすか當真さん?」
 新垣さんが受付から声をかけてきた。


「うん、マジマジ。だから私達も注意して患者さんを見ていかないとね。ですよね川満さん」


「私も妊娠してるときは気を付けたなぁ。ビタミンAの摂りすぎ」


「はい、じゃあ依吹さん、ビタミンAを長期で摂りすぎると何がヤバいのでしょうか?」
 と當真さんが私にクイズを出す。


「え、ええと……ビタミンAは脂溶性ビタミンで体に貯まりやすいので、過剰摂取に注意すべきビタミンの一つ。過剰摂取の頭痛や皮膚の乾燥。あと、妊婦さんの過剰摂取は、胎児の発育不全の可能性を高める……こんな感じでいいでしょうか」


「うん。呉屋さんはどう思います?」


「いいんじゃないかな。そこまでわかってれば十分だよ」


「うへぇ……最近ビタミンAがどうのって話をよく見たんで、たぶんウチの友達で大量に摂ってる子、いると思いますよ」
 新垣さんが苦々しく言った。


「どんなものだってそうだけど、食べすぎ、摂りすぎはよくないってことだね」


 當真さんが言い終わると、若い男性が薬局に入ってきた。


「お願いします」


 色黒の彼は受付の川満さんに処方箋などの一式を渡す。処方箋を見た新垣さんはすぐさま薬を収集し、監査の當真さんに回した。ほどなくして監査も終わり、この時間の患者対応担当の私のところに現物がやってきた。


(知念和也さん、二十才男性。最後に来たのは二年くらい前か……)

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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お読みいただきありがとうございます。

第9話『隠れ家』は、『薬剤師の南』第一部の最終章です。

引き続きお付き合いください。

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