#40薬剤師の南 第7話-7 ヒーローの南(小説)

 観光とはいうものの、社会人一年目の私は仕事で手一杯だったので、こちらの観光事情に明るいわけではなかった。そこで薫が来る前に一緒に案内してくれる人はいないかとラインで募ったら、シロが「休みだから行く」と言ってくれた。

 那覇ならド定番の国際通り、というシロのアドバイスに従い、通りの入り口付近で待ち合わせることにした。

 シロは近くの駐車場に車を止めてから私達のところへ来た。恵ちゃんもそうだったが、若くても一人一台くらいは車を持っていないと沖縄では苦労するみたいだ。

「ここに来るのは小学校のとき以来かなぁ? 地元にいるとなかなか来ないんだよねぇ。大体来るのは観光客ばっかだから。そうそう、初めて会った妹ちゃんにはプレゼント!」

 と、猫の小ぶりなキーホルダーをバッグから取り出した。研修で会ったときもそうだったが、やはりこれがシロの鉄板のコミュニケーション術なのだろう。

「ありがとうございます!」と薫はそれを受け取る。唐突なプレゼントを心から喜んでるのかもしれないが、ただ単に芸能界で生き延びるために身に着けた処世術を発揮しただけなのかもしれない。

「昔と雰囲気が変わったなぁ。ギラギラしてるっていうか」
 歩きながらシロが呟く。

 通りに立ち並ぶ店は、鮮やかな原色をふんだんに用いた看板や商品が目立ち、この地ならではの独特の雰囲気を醸し出している。今日も相変わらずすさまじい暑さで長時間外を歩くのは難しかった。だから私達は少し歩いては店に入る、ということを繰り返しながら通りの奥の方へと進んでいった。

 途中で薫は地元のゆるキャラらしきものがプリントされた真っ赤なTシャツを買った。

「こういうのを着て少しでも私のことを覚えてもらわないと、いつまで経っても仕事がもらえないよ」

 と薫は言う。嫌々の買い物という感じはなく、むしろ楽しんでるようだった。これが夢に向かって迷わず進んでいる人間が放つ輝きなのだろうか。

 やがて昼になったので、シロが勧めるレストランに入った。私はタコライス、薫は沖縄そば、シロは「そういうやつはもう食べ飽きてるから」とたぬきうどんを注文した。

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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