#67薬剤師の南 早雪 前編 3

「……また長引くだろうから、一応知らせに来ただけ」

 シロは少し言葉に詰まったようだった。
 社長は深く溜息をついた。

「入院したのは父さんとしても心が痛む。だけれども、もう母さんは母さん自身の人生を生きているんだ。今さらこっちの顔なんて見たくないだろう。だから父さんにできることはもう何もない。お前はそうやってこの先もずっと、母さんに何かあるたびに文句を言いに来るのか?」

 ――つまり、シロは社長の、娘ってこと?

「……新人を採用したんだってね?」

「今度は何だ?」

「どういう神経してるわけ? また怒鳴って、泣かせて、追い出して、ママの他にも不幸な人間を増やす気なの!?」

 社長は私の方に、一瞬だけ気まずそうにちらりと視線を送った。

「到底信じられないかもしれないが、私もずっと反省を続けてきた。今の職員は皆ここに来てから長い方々が何人もいる。良い薬局になったとは今でも自身を持って誇れないが、このことは事実だ」

「さあ、どうだろうねぇ? 皆内心、不満が爆発寸前だったりするんじゃない?」

「千秋、今は仕事中だ。まだ何か話があるなら薬局が閉まってから来なさい。もうそれがわからない齢じゃないだろう?」

 シロは踵をかえすと、ようやく私に気が付いた。
 先に口を開いたシロは険しい表情のままだった。

「ああ、居たんだ」

「……うん」

 かえす言葉が見つからず、相槌を打つだけで精一杯だった。

「こんなろくでもない薬局にいつまでも居たら、不幸になるよ」

「千秋!」

 社長の一喝を無視してシロは出ていった。

「ふぅ……すみません南さん。みっともないところを見せてしまって」

「いいえ、気になさらずに……その……千秋さんは……娘さん、なんですか?」

「ええ。恥ずかしい話ですが、随分前に離婚してましてね」

「……そうだったんですか」

「とにかく、今後ああいうことがあっては迷惑だ。いくら僕の娘だからといって勝手に薬局に入ってこないよう、皆に伝えます。南さんも千秋がきたら、今後は一旦外で待つように言ってやって下さい」

 その日は結局、閉局時間を過ぎても、シロは戻らなかった。

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