#29薬剤師の南 第6話-3 青い宇宙 Ⅰ(小説)

 高江洲さんの家はアパートの一階部分にあった。かなり広々として、もう一回り大きければマンションという規模なので、家族がメインターゲットの物件なのだろう。

 當真さんはチャイムを鳴らして名乗ると、

「入ってー」
 間延びした女の子の声がインターホンから返ってきた。
 そのまま私達はリビングまで入る。

「こんにちはー、薬局でーす」

「朋夜ちゃーん、ヤッホー!」

 数学の教材を机に広げた女の子――高江洲美海さんが、當真さんの姿に表情がぱっと明るくなる。

(……と、朋夜ちゃん?)
 予想をはるかに超えたフレンドリーなやり取りに、私はいきなり面食らった。

 美海さん、いや、美海ちゃんの外見で目に付くのは、やはり在宅酸素療法の要、酸素を吸入するための管――鼻カニューラを付けていること。さっきの様子を見る限りは、不登校ながらも、自宅での生活はきちんと行えているようだ。

「お母さんはお仕事?」

「うん、そろそろ帰ってくると思う。で、そっちの人、誰?」

 私は當真さんの後ろから前に進み、

「初めまして。新しく入った薬剤師の南依吹って言います。東京から来ました」

 形式ばった挨拶にならないよう、言葉をやや崩すことを意識した。だが突然、

「東京?」
 あからさまに美海ちゃんが不機嫌になる。

(え、よくわからないけど、いきなり地雷踏んだ!?)

 緊張で、耳のあたりに冷や汗が一筋流れるのがわかった。

「ねー朋夜ちゃん、わざわざウチに東京の人連れてきてさ、朋夜ちゃんも私を東京に行けって言いに来たの?」

 當真さんのほうを覗うと、表情は崩していないものの、やや怪訝な様子が感じられた。

「ごめん、もうすこし詳しく聞かせてくれるかな?」
 當真さんはきわめて冷静に訊き返した。

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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