#35薬剤師の南 第7話-2 ヒーローの南(小説)

 薬局の看板にはよく『どの病院の処方箋でも受け付けます』との文言が書かれている。つまりは東京の病院で発行された処方箋を沖縄の薬局に持って行って薬を受け取っても、何の問題もない。ただ、『受け付ける』ことはできても、処方箋に書かれた薬がその薬局の在庫になければ『すぐに薬を渡す』ことはできない。そのあたりの誤解が時々クレームとなることもある。

「南さん、せっかくだからちょっと仕事を変えて、妹さんの対応、する?」
 と社長が言う。私の午後の仕事の割り当ては監査*1。患者対応をしないことを一応考慮はしてくれているようだった。

「業務命令ということなら喜んでやらせていただきますが、ちょっと恥ずかしいので、他の方のほうがいいかと……」

「そうだね、恥ずかしいよね。じゃあ當真さんお願い」

「はーい」
 當真さんが返事をした。

(妹よ、珍しい薬だったら、こっちにいるうちには渡せないぞ)

 私が処方箋の内容を見ようとすると、

「はい南さん。妹ちゃんとの話が聞けなくて残念っす」

 休憩から戻った新垣さんが私に、監査に必要なものがそろったカゴを差し出して意地悪に笑う。

 苦笑いで応えた私は中身を確認する。

(――ロキソプロフェンナトリウムテープ、十四日分、右足首に貼付)

 ポピュラーな鎮痛、炎症の貼付剤だった。
 怪我か。まあ薫のしていることを考えれば納得だ。

 お薬手帳もここ一年は風邪の処方が二回ほどあったことが書かれているのみだった。

 監査OK。薬の一式を當真さんへと回した。


*1 処方薬が患者にとって適切か、準備した薬に間違いはないか、等の確認を行う薬剤師の業務

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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