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#57薬剤師の南 第9話-7 隠れ家(小説)

 幸運にも、知念さんは使った防除剤の名前を覚えていた。

「名前は……エンジールプロテクト……とかいうやつだったと思います。ホームセンターに行って買いました」

「エ、ン、ジー、ル……プロテクトですね」

 聞き取った名前に間違いがないかを、メモ用紙を見せながら一字ずつ確認する。
 早速パソコンでその商品を探し、出てきた通販サイトの一つを開いて成分の表示を見た。目に留まったのはその主成分――フェノブカルブ。

「フェノブカルブ! 確かこの成分は……」

 この名前で再度検索すると、物質の詳細な情報が載せられたページが出た。

「――やっぱり、カルバメート系!」

 カルバメート系の物質を吸入したならば頭痛や神経症状が出てもおかしくはない。治療法はやはりアトロピンの静注で間違いないようだ。これで糸数さんに提案する内容は整った。

 意を決して病院へ電話をかけようとすると、

「お世話になります! 琉星薬局です!」

 見覚えのない若い女の子が元気のいい挨拶とともに薬局に入ってきた。

「あ、はーい」

 新垣さんが返事をして点眼薬を二本カウンターに出し、彼女が書面を書いてお金を置いていった。

(小分け、か……)

 自分達の薬局に在庫がない場合に近隣の薬局から必要な薬を購入する行為――『小分け』と呼ばれる取り引きである。

「ウチが覚えてるだけで同じ薬を四回目ですよ、お星様――ああ、『琉星』だからお星様って勝手に呼んじゃってます。いい加減、自分らで薬買えっつーの」

 彼女が帰ると新垣さんが小声で私に愚痴る。

「……ああ、すいません、早く電話をかけちゃって下さい」

 琉星薬局――確か、摩耶ちゃんのいる薬局だった、よね……

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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