#62薬剤師の南第二部・プロローグ1
かち、かち、かちと時計の秒針が真夜中の部屋に響く。
どれくらいの間、そうしていただろうか――私は腕を組んで、眼前の冊子の裏表紙をずっと眺めていた。
デスク上のその冊子は私の勤務先の薬局の片づけで見つけた銘里市薬剤師会の古い会報だ。裏表紙には私が小さかったころ、ごくわずかな間だが共に生活をした薬剤師の『あの人』が、県央の『尊聖まえしろ総合病院』の薬剤部の一員として集合写真に映っているのだ。薬剤部らしき部屋の斜め上から俯瞰したアングルで撮られたその写真は薬剤師達が一列に並ぶようなフォーマルなものではなく、自然にその場所に集まっているかのような空気が時を超えて伝わってくる。
「社長に頼んでもらってきたこの会報――」
片付けの途中にこの会報を見つけて私が涙を流していたとき、偶然社長が部屋に入ってきた。驚く社長に私は涙を拭きつつ写真の人物について一通り説明をした。一応社長にもこの写真の人物を知っているかどうかを訊いてみたが、案の定知らないという。
そして「古いものだし、うちの薬局のデリケートな機密情報ってほどでもないから持って帰っていいよ」と言われ、今は私の手元にあるのだ。
冊子を見つめてずっと考えていた。
『あの人』が映った写真がここに残っている――これは何を意味するのか。
だが一向に答えは見つからなかった。
ならば、やり方を変えてみよう。一人で考えているから答えが出ないのだ。私だけでなく、性格が全く違う人物を複数人作り出し、この状況をどう解釈するのかを考えるのだ。私にはそれができるじゃないか――
椅子から立ち上がった私は、食事用に使っているローテーブルに向かって、
「――ただ今より、緊急会議を開催する!」
と大仰に号令を発した。
そして、
「あんた、それ、自分でやってて虚しくならない?」
私はテーブルの周りに、私の内面にいる『友達』の生薬の少女を四人配置した。その中の一人――机に頬杖をついた桂皮が毒づいた。
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