#46薬剤師の南 第7話-13 ヒーローの南(小説)

 シロと別れた後、グループラインを使って恵ちゃんと摩耶ちゃんにも明日の薫のイベントを見に行かないかと誘った。久々に会う口実としてうってつけの機会ということもあったがのだが、あんなことを言って薫を送り出したくせに、なるべく大勢で行かなければ本番を最後まで見る勇気がなかったからだ。

 メッセージを送った後、断られたらどうしようと不安にかられたが、恵ちゃんも摩耶ちゃんも行くとの返信があり、自分勝手ながらほっとした。

 その晩はろくに眠れなかった。わずかな睡眠しかとれないまま朝が来て、寝不足で頭がぼんやりしたまま開始時間のはるか前に会場のノーズタウンに着いてしまった。

 時間が余り過ぎているのでモールの中の映画館で静かそうな雰囲気の邦画の上映に入り、昼食代わりのポップコーンを食べながら浅い眠りについた。

 イベントの時間が近づいている。映画館を出た私は会場へと向かった。私達は全体を見通せる一つ上のフロアからショーを見ようとあらかじめ話をしていて、すでにそこではシロが待っていた。

 下の階の会場を覗く。

(多い……)

 親子連れが百人前後はいるようだった。

(それに、女の子も結構いる……)

 こういう特別な時間は女の子も心が躍るのか。私自身はどうだったのかは覚えてないが、幼い薫がはしゃいでいたのを遠巻きに見ていたことはうっすらと記憶に残っていた。この中から今の薫のような子が出てくるのだろうか。

 間もなくして恵ちゃんと摩耶ちゃんが一緒になって来た。

「よっ。凄そうなことになってるから飛んできた。授業参観の母親のような気持ち?」
 と恵ちゃん。

「というより、受験生の気分。生きた心地がしないよ……」

「ふあぁ……眠い。みんな久しぶり。こんな状態でごめん。昼近くまで寝てた」
 隣の摩耶ちゃんは大あくびを手で隠しながら言った。

「摩耶っち、だいぶお疲れ?」

「まあ、色々とね」

 シロの問いを涼しくはぐらかすが、立ち姿がやや猫背になっていたのは隠しきれていなかった。急に呼び出して悪いことをしてしまったかな、と私は思った。

※この小説はフィクションです。実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また、作中の医療行為等は個人によって適用が異なります。

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