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第15回 INSEADでの学び どのようにAccounting / Financeを教えているのか(その1)?

2024年9月最終週から4つ目の必修科目であるAccounting、Financeの授業が始まりました。これが最後の必修科目です。プログラムが開始してからおおよそ半年が経過しました。やはりINSEADのMBA、EMBAコースと同じくAlumni資格を取得できるプログラムであり、とても勉強負荷の高いプログラムです。この時期になると70名を超える同期の名前と顔もだいぶ覚えてきました。オンラインプログラムではありますが、同期っぽい感じが出てきています。

この講義は経営者、経営層を対象とした授業であり、財務会計の専門家を対象としたものではありません。つまり以下のポイントについては、INSEADとしては、経営者、経営層としては知っておくべき内容と考えています。それがゆえ、この科目が必須科目となっています。今回のポイントは以下になります。


発生主義とは何か?(これは現金主義と対照的になる考え方のこと)

想定以上に、発生主義について丁寧に説明していました。発生主義とは、企業が取引や経済活動を行ったタイミングで収益や費用を認識する会計手法です。この方法では、現金の受け取りや支払いのタイミングにかかわらず、経済的な実態を反映した会計報告が可能となります。これに対して、現金主義は、実際に現金が動いた時点でのみ取引を認識するため、両者の考え方は対照的です。発生主義を用いることで、特定の期間内に発生した収益と費用を認識、集計することができます。

たとえば、減価償却費は発生主義の典型的な例です。企業が設備を購入した際、その費用は一度に認識せず、設備の耐用年数にわたって分割して計上します。つまり、キャッシュの動きと発生主義に基づく会計処理は違います、このことをしっかりと理解してください、と言っています。

経済活動をPL項目、BS項目のいずれとして処理するか、ということでもあります。これは経理財務に携わっている人からすると当たり前のことなのですが意外に理解することは難しいと思います。私は、キャリアスタートを経理部で始めました。とにかく簿記を理解するということで、仕訳処理をひとつずつ覚えていくのですが、発生主義と現金主義の違いを理解することができたのはだいぶ後のことです。この2つを理解していなくても簿記2級は合格できてしまうのです。発生主義と現金主義の違いを理解したのは早稲田のMBA時代であり、そこでの学びによって、財務諸表の理解が深まりました。発生主義と現金主義の違いを理解することが貸方、借方の理解であり、さらには、利益とキャッシュフローの違い、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を理解する大元の原則となります。

ROAを中心に財務諸表を理解する

ROAを中心に財務諸表を理解していきます。私もやはりROAが事業全体の業績を評価する経営指標であることは同意します。一方で、私が早稲田MBAに通った2003-2005当時ですが、株主価値の向上ということが非常に着目されていた時代でもありました。その頃はROEが一番着目されていたように感じます。つまり、株主の利益最優先ということです。海外の会社と比べて、日本企業のROEが低い、株主還元ができていない、株主利益の最大化を目指すということから、ROEを重視しておりました。

時代は変わって、株主利益は当たり前というのでしょうか、それだけではない、環境、人権、サステナビリティーなどより多くのステークスホルダーへの貢献という指標で経営成績を評価するようになってきました。

デュポンの公式

ROEは以下の数式、デュポンの公式とも言われますが3つの部分に分解することができます。

デュポンの公式

最初のブロック、売上高利益率を上げるには、付加価値を高めて販売単価を上げる、もしくはコストを下げるのいずれかになります。2つ目のブロック、総資産回転率を高めるということです。売上を伸ばす、もしくは、総資産を減らすということになります。しかし最初の2つはなかなか大変です。仮にこれらを小売業に当てはめた場合ですが、販売価格を上げて、仕入れコストを下げて、陳列する在庫を減らす、これらを実行せよと言っているのです。これが容易に実行できるのであれば苦労はしません。
そして、3つ目のブロックがレバレッジというものであり、自己資本を減らす(=借金を増やす)ことで高めることが出来るわけです。自己資本の部分には利益剰余金という、ビジネスを通じて積み上げた利益が貯まる部分でもありますが、ここの部分が大きくなることは経営の安定性が高まるという意味では良いのですが、株主に配当をせずに利益を溜め込んでいるとも言えるわけです。かつて日本企業は海外企業に比べると配当性向が低く、利益剰余金を溜め込んでいる企業も多く、ROEが低くなっておりました。この点を指摘する際に、デュポンの公式のレバレッジを用いて、配当を増やすこと(=借入を増やすこと)を訴求しました。本来、ROEの向上というのは、本業の儲け、資産効率を高めることで実現するべきです。しかしながら、このレバレッジというのは財テクで実現できる(=本業の改善がなくとも改善できる)ものでした。株主への利益率を高める指標ではありますが、本業の改善なく高められてしまう点が経営指標としての問題点としてありました。

早稲田のMBAコースのアカウンティング・ファイナンス、管理会計の授業はとてもしっかりしていた。

これまで講義を受けていて、知らなかったものは正直ほとんどありませんでした。実務として私は現在、経営企画と経理部を担当しておりますし、財務会計も、管理会計もファイナンスもやっておりますので、当然と言えば当然です。私の知識のベースは20年前に早稲田MBAで学んだことが土台になっています。あらためて、早稲田での学びがとても素晴らしいものであったことを改めて実感しました。早稲田のMBAのアカウンティング・ファイナンスを担当されていた西山茂先生のお陰であります。先生は、公認会計士(日米)でもありながら、ペンシルバニア大学ウォートンスクールでMBAを取得もされており、戦略、マネジメントも理解されている、とても優秀な先生です。そして何よりも人当りも良く、講義の説明も大変丁寧でした。

私はお世辞抜きで西山先生以上にアカウンティング・ファイナンスを分かりやすく、解説・指導できる先生は日本にはいないと思います。私は現在、経営企画室、経理部を率いていますが、私の部署に所属になったメンバー全員にBBT(Business Breakthrough Channel)アカウンティング講座 財務分析入門を受講してもらっています。

西山 茂 教授(NISHIYAMA, Shigeru) – 早稲田大学 大学院経営管理研究科

キャッシュは事実、利益はオピニオン

これは西山先生もINSEADの教授も語っていたメッセージです。現金は改ざんのしようがありません。しかしながら利益はオピニオン、意見・見解であり操作、コントロールをすることができるわけです。そしてオピニオンが大きく表れるものが減価償却費であり、減価償却費は冒頭の「発生主義」で述べたように、企業の会計方針に沿って費用化されていくのです。まさにオピニオンです。
具体的事例として大変面白かったのが、航空会社の航空機の償却年数についての各社の違い、変更履歴についての説明でした。授業で用いたデータは共有できませんので、ネット上で見つけた情報に同種のものがありましたのこちらを共有します。

デルタ航空とシンガポール航空の減価償却費について
https://www.slideshare.net/slideshow/depreciation-at-delta-airlines-and-singapore-airlines/43238238

航空機大手は、ボーイング社とエアバス社です。つまり使用している機体は同じであり、使用用途も貨物、乗客を運ぶということでは同じながらも、各社によって減価償却期間は異なるのです。償却期間だけでなく、定率法で償却するのか、定額法で償却するのか、さらには残価設定(期待が古くなった際に期待を売却するときの転売価格)なども毎年の償却費に影響します。

多面的な指標で業績評価を行う必要がある

財務諸表は、企業の経営状況を把握するための重要なツールです。これらは、ほぼ世界共通の会計基準に基づいて作成されており、経営指標の分析に役立ちます。しかし、万能な指標は存在せず、複数の経営指標を用いた総合的な財務分析が求められます。

INSEADで学んだように、会計とファイナンスの基本には「発生主義」の理解があり、それをもとにROAやROEといった指標が統合的に活用されています。発生主義が適用される限り、各企業の会計方針が異なることから、現金主義とは異なり、「キャッシュは事実、利益は意見」という観点を意識することが重要です。

次回の投稿では、このところよく見かけるようになったROICについて説明していきます。簡単に言うとROAをさらに進化させた経営指標と言えると思います。


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