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「観る将」が観た第72期王将戦第六局

3月11-12日、第72期王将戦七番勝負第六局が佐賀県の大幸園で行われました。令和の王者藤井聡太王将が平成のレジェンド羽生善治九段を迎え撃つ夢の対決は、ここまで互いに先手番を取り合う好勝負となりました。あと1勝で防衛となった藤井王将が一気に決着を付けるのか、本局では先手番の羽生九段が巻き返すのか、将棋界の視線を集める大一番となっています。

前日に行われた前夜祭で、藤井王将は「多くの方に注目していただける対局になりますので、2日間集中して精一杯頑張りたいと思っています」、羽生九段は「大変な状況ではありますが、そういう中でも楽しんで自分らしい将棋が指せるように一生懸命やれたらいいなと思っています」と挨拶しています。


戦型は角換わり相早繰り銀

大きな窓の明るい対局室に、羽生九段が淡黄色の着物と羽織に深緑色の袴で入室すると、藤井王将は萌黄色の着物と茶色の袴に白い羽織で入室します。先手の羽生九段が角換わりに誘導して早繰り銀に進めると、藤井王将は受けて立ち相早繰り銀の将棋となります。

羽生九段の仕掛け

羽生九段が3筋から仕掛けると、藤井王将は8筋の継ぎ歩攻めで応じます。羽生九段は3筋に歩を打って銀を2筋に引かせてから6筋の歩を突きますが、藤井王将は8筋の歩を取り込んで制圧します。藤井王将が3筋の歩を合わせると、羽生九段が6筋の歩を伸ばして銀で取らせ、飛車取りに角を打ちます。

前例を離れる

ここまで羽生九段が後手側を持って指した前例がありましたが、藤井王将は研究の範囲なのか、少考で6筋に角を合わせて前例を離れます。羽生九段が銀取りに飛車を6筋に回すと、藤井王将は桂を跳ねて銀を支えます。羽生九段が7筋の歩をぶつけると、藤井王将は72分の長考で同歩と応じます。次の45手目を羽生九段が考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王将が6時間16分、羽生九段が6時間40分となっています。

藤井王将の攻防の角

羽生九段が昼休を挟む79分の長考で銀をぶつけると、藤井王将は角交換後に銀も交換して、△7四角と攻防の角を打ちます。羽生九段が3筋の歩を交換してから玉を4筋に上がって後手の角成を防ぐと、藤井王将は4筋に銀を上がって中央の戦力を補強します。

お互いに陣形を整備

羽生九段が金を3筋に上がると、藤井王将は53分の長考で金を7筋に上がります。羽生九段も59分の長考で玉を3筋に引くと、藤井王将は3筋に桂を跳ねて攻撃態勢を整えます。羽生九段が考慮中に定刻となり、次の59手目を封じました。形勢はわずかに藤井王将に傾いているようです。残り時間は藤井王将が4時間29分、羽生九段が4時間4分となっています。

先手の玉頭を威圧する銀

羽生九段の封じ手は、桂跳ねに備える▲3四銀でした。藤井王将は玉を上げて居玉を解消し、羽生九段が左桂を7筋に跳ねると、61分の長考で飛車を浮いて角に紐を付けます。羽生九段が玉を2筋に上がると、藤井王将は△3六銀と打って先手玉に圧力を掛けます。

ぶつかり合う両者の銀

羽生九段が5筋の歩を突いて後手の角の利きを止めると、藤井王将は△4五銀上とぶつけます。両者の銀4枚がぶつかり合う形になりましたが、羽生九段は手抜いて金取りに角を打ち込み攻め合います。藤井王将が金底の歩を打って受けると、羽生九段が次の69手目を考慮中に昼休となりました。形勢は更に藤井王将に傾いてきました。残り時間は藤井王将が2時間24分、羽生九段が2時間45分となっています。

藤井王将の好所の角

昼休が明け、羽生九段が3筋の銀を引いて銀を取ると、藤井王将は桂で取り返します。羽生九段が67分の長考で6筋に歩を合わせて攻め合うと、藤井王将は飛車取りに△5七銀と打って踏み込みます。羽生九段は飛車を1つ引いて辛抱しますが、藤井王将は4筋で銀を交換し、△5六角と好所に飛び出します。

羽生九段の反撃

この角は飛車に当てっていますが、それ以上に先手陣の要となっている金に当たっている厳しい一手となっています。羽生九段は6筋の歩を成り捨て、▲6一銀と王手して後手玉に迫ります。この銀はタダですが、取ると即詰みが生じるので、藤井王将は6筋に玉を寄ってかわします。

長手数の即詰み

羽生九段が腹銀を打って詰めろを掛けて形を作ると、先手玉には長手数の即詰みが生じているようで、藤井王将はノータイムで金を角で食いちぎります。羽生九段は飛車を犠牲に粘りますが、藤井王将が取った飛車を△5七飛と王手で打ち込むと、毅然とした姿勢で投了を告げました。

本局のまとめ

本局は羽生九段自身が後手を持って指した前例をたどる序盤戦となりましたが、藤井王将が角の打ち場所を変えて前例を離れました。藤井王将が再度角を交換し、攻防に打ち直した手が好手だったようで、銀桂と連携した攻撃が先手陣に突き刺さり、羽生九段の粘りを許さず寄せ切りました。

本シリーズのまとめ

間違いなく後世に語り継がれる歴史的七番勝負は、藤井王将が4勝2敗で防衛を果たしました。
藤井王将が圧倒的強さを誇る先手番となった奇数局では、羽生九段が一手損角換わり、雁木、横歩取りと、自らの土俵に誘い込みましたが、藤井王将は怯むことなく強気の姿勢を貫き3局すべて勝ち切りました。
羽生九段の先手番となった偶数局では、羽生九段が相掛かりと角換わりで渾身の研究をぶつけ、序盤からリードを奪うと緩みなく攻め切る快勝を続け、シリーズを大いに盛り上げました。最終局では惜しくも力尽きましたが、羽生九段が番勝負では負け知らずの藤井王将を倒す有力候補であることを印象付けました。
対局後の記者会見で、藤井王将は「今シリーズはすべて違う展開になって、自分自身経験の少ない将棋も多く、その中で感想戦も含めてそういう局面を考えることができるというのは楽しい時間だったと感じています」と話していたのが印象的でした。進行中の棋王戦五番勝負や挑戦が決まった名人戦七番勝負でも、良い結果が残せるよう期待したいと思います。
羽生九段は終局後「自分自身の足りないところを改善して、また次に臨めたらと思います」と話しています。この両雄が、近い将来にまたタイトル戦の舞台で戦うことを楽しみにしたいと思います。

ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟が主催し、ALSOKが特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリーが協賛しています。棋譜は公式サイトをご覧ください。

本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)

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