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「観る将」が観た第74回NHK杯トーナメント本戦2回戦 藤井竜王名人vs西山女流三冠

9月15日、NHK杯本戦の藤井聡太竜王名人と西山朋佳女流三冠の対局が放映されました。NHK杯の本戦は、持ち時間10分・切れたら1手30秒未満(他に各1分の考慮時間10回)の早指し棋戦で、総勢50人のトーナメントとなっています。

藤井竜王名人は本戦からの登場で、本局が初戦となります。西山女流三冠は女流枠での出場となり、本戦1回戦では強豪木村九段を倒しています。将棋界の絶対王者に女性初の棋士を目指す西山女流三冠が挑む、楽しみな顔合わせとなりました。両者は奨励会時代に3局指して西山女流三冠が2勝していますが、藤井竜王名人の1勝は三段リーグの最終局でプロ入りを決めた一局です。公式戦ではこれが初手合いとなります。

対局前のインタビューでは、藤井竜王名人は「早指し戦なので時間配分に気を付けつつ、最後まで集中して指したいと思います」、西山女流三冠は「せっかくいただいた貴重な機会ですので、自分の勉強になる将棋を求めて頑張りたいなと思っています」と話しています。


西山女流三冠は向かい飛車

振り駒で後手となった西山女流三冠は、角を交換して向かい飛車に振ります。藤井竜王名人は▲4六銀と繰り出して銀対抗の形に構え、西山女流三冠が銀冠に組むと、6筋の位を取ります。西山女流三冠は△2一飛と引き、藤井竜王名人が7筋の歩を交換して手持ちにすると、△4二金と上がってバランス型の陣形に構えます。

西山女流三冠の馬

藤井竜王名人が▲8六歩と突くと、持ち時間を使い切った西山女流三冠は考慮時間を1回使って△5九角と打ち込みます。意表を突かれたか藤井竜王名人も持ち時間を使い切り、▲7七桂と跳ねて8筋の歩を守り、西山女流三冠が△1五角成と馬を作ると、▲3七桂と跳ねて馬の可動域を狭めます。西山女流三冠は△2五桂と跳ねて桂で取らせ、△2四歩と突いて取り返しにいきます。

藤井竜王名人も馬を作って対抗

藤井竜王名人は考慮時間を2回使い、▲1三桂成と成り捨てて香を吊り上げ、飛車取りに▲1二角と打ちます。西山女流三冠は△2二飛とかわしつつ角に当て返し、藤井竜王名人が▲3四角成と馬を作ると、△5九馬と潜ります。藤井竜王名人は▲5六馬と引き付け、西山女流三冠が△5三金と上がって陣形を引き締めると、▲7六歩と打って桂を打たれる傷を消します。

盤面中央でのぶつかり合い

西山女流三冠は考慮時間を5回使い、5筋の歩をぶつけて銀交換し、△5四歩と打ち直して銀を引かせ、力強く△4四金と繰り出します。藤井竜王名人は▲2一飛と引いて馬に当て、西山女流三冠が△3七馬と引くと、考慮時間を2回使って▲7五歩とぶつけます。西山女流三冠は構わず△5五歩とぶつけ、藤井竜王名人が▲4六馬とかわしつつ馬にぶつけると、△3八馬と飛車に当てます。

西山女流三冠の馬銀両取り

藤井竜王名人が飛車を7筋にかわすと、西山女流三冠は馬銀両取りに△5四桂と打ちます。馬を逃げると攻守の要となっている銀を取られてしまう痛烈な一手に見えましたが、藤井竜王名人は両取り逃げるべからずで7筋の歩を取り込み、西山女流三冠が桂で馬を取ると、▲7三歩成と後手陣の桂を剥がします。ずっとほぼ互角を示していたAIの評価値は藤井竜王名人の68%と傾いています。

激しい玉頭戦

西山女流三冠は△7四歩と自陣の傷を消し、藤井竜王名人が▲7六桂と打つと、△7五銀と桂先の銀で守ります。藤井竜王名人は▲8五歩とぶつけ、西山女流三冠が△5八角と打って7六の地点の桂を狙うと、▲8七銀と打って紐を付けます。西山女流三冠は力強く△4九馬と数を足しますが、藤井竜王名人は飛車を馬と刺し違えて崩れません。

西山女流三冠の反撃

藤井竜王名人が8筋の歩を取り込み、7筋で銀を交換してから▲8四桂と銀を取ると、西山女流三冠は最後の考慮時間を使って△8六歩と銀頭を叩いて上ずらせ、金取りに△6九銀と打って攻め合います。藤井竜王名人は▲6八金引と受け、西山女流三冠が金銀交換してから△7六馬と攻防に引き付けると、金取りに▲8五桂と打ちます。西山女流三冠が△8六馬と銀を取って下駄を預けると、藤井竜王名人は▲7三桂成と金を取って王手し、▲5一角~▲7四銀と王手を続けます。後手玉には即詰みが生じているようで、西山女流三冠は姿勢を正して投了を告げました。

まとめ

本局は西山女流三冠の銀冠に対し、藤井竜王名人は玉頭に厚みを築いてバランスを保ちました。西山女流三冠が馬を作って攻撃の相掛かりを作ると、藤井竜王名人も馬を作って対抗しました。西山女流三冠は馬銀両取りを掛けますが、藤井竜王名人は馬を取らせる代わりに玉頭から攻め掛かりました。西山女流三冠は怯まず攻め合いましたが、藤井竜王名人は手堅く凌いで、最後は即詰みに討ち取りました。
藤井竜王名人が貫録を示す完勝となりましたが、西山女流三冠も持ち味を出し切った好局だったと思います。感想戦では西山女流三冠にも笑顔が見られ、充実した内容だったことを感じさせました。西山女流三冠が本局の経験を活かして、棋士編入試験でも良い結果を残せるよう期待したいと思います。

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