「観る将」が観た第49期棋王戦五番勝負第四局
3月17日、第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第四局が、栃木県日光市の日光きぬ川スパホテル三日月で行われました。防衛まであと1勝となった藤井聡太棋王が一気に決着を付けるのか、カド番となった伊藤匠七段が反撃の狼煙を上げるのか、注目の一局となりました。
前夜祭では、伊藤七段は「スコアは厳しい状況ではありますが、ここから巻き返していければと思っています」、藤井棋王は「私自身、面白い将棋を指せるよう全力を尽くしたいと思っています」と挨拶しています。
藤井棋王が角換わりを回避
純和風の対局室に、伊藤七段が紺色の着物と灰色の袴に淡い若竹色の羽織で入室すると、藤井棋王は茶系の着物と灰色の袴に茶系の細かい柄が入った羽織で入室します。先手の伊藤七段が角換わりに誘導すると、藤井棋王は珍しく角道を開けず定跡を外します。伊藤七段は飛先の歩を交換し、棒銀で銀を交換し、3筋の横歩も取ります。藤井棋王が右銀を繰り出して先手の角頭を狙うと、伊藤七段は3筋の歩を伸ばし、飛車の横利きで角頭を守ります。
伊藤七段の長考
藤井棋王が1筋の歩を突くと、伊藤七段は50分の長考で玉を6筋に寄って居玉を解消します。藤井棋王が2筋に持ち駒の銀を打つと、伊藤七段が次の45手目を考慮中に昼休となりました。ABEMAの解説陣は歩得の先手持ちと口を揃えていますが、AIの評価値はほぼ互角の範囲で揺れています。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋王が3時間12分、伊藤七段が2時間13分と1時間近い差が付いています。
藤井棋王が角で牽制
伊藤七段は昼休を挟む31分の長考で飛車を3筋に寄り、藤井棋王が1筋に角を覗くと、持ち駒の銀を打って飛頭の歩を支えます。藤井棋王は5筋の歩を伸ばし、伊藤七段に角で取らせてから、角を3筋に引きます。伊藤七段は35分の熟考で2筋の銀頭を歩で叩き、藤井棋王に銀を引かせてから、7筋に桂を跳ねて銀に当てます。AIの評価値は藤井棋王の57%とわずかに傾いてきました。
伊藤七段が7筋から攻勢
藤井棋王は銀を引いて角に当て返し、伊藤七段が角を2筋に引くと、8筋の歩を交換して角で取ります。伊藤七段は玉を7筋に寄せ、藤井棋王が玉を3筋に寄ると、7筋の歩を伸ばします。藤井棋王は角で取り、伊藤七段が更に7筋に歩を打って飛車のコビンを狙うと、5筋に歩を打って先手の角の利きを止めます。
伊藤七段の"と金"
お互いに残り1時間を切り、伊藤七段が7筋の歩を成り捨てて桂頭を歩で叩くと、藤井棋王は桂を6筋に跳ねてかわします。伊藤七段は7筋に"と金"を作って飛車に当て、藤井棋王が飛車を浮いてかわすと、飛頭に歩を打って追います。藤井棋王は根元の桂を交換してから飛車で歩を取り、伊藤七段が再度飛頭に歩を打って追うと、飛車を下段に引きます。
飛車と角の取り合い
伊藤七段は26分の熟考で2筋の歩を突き捨て、飛車を7筋に回して角に当てると、藤井棋王は角を6筋に引きます。伊藤七段は"と金"を引いて角に当て、藤井棋王が飛車取りに銀を繰り出すと、角を取って飛銀交換を甘受します。藤井棋王が飛車を7筋に寄って金に当てると、歩切れの伊藤七段は残り10分となり、秒読みの声を聞きながら"と金"を飛車の利きに差し出します。
飛角交換
藤井棋王は金銀両取りに飛車を打ち、伊藤七段が2筋に桂を打って王手すると、玉を2筋に上がってかわします。伊藤七段は角を4筋に上がって金取りを受け、藤井棋王が飛車で2筋の銀を取ると、桂で1筋の香を取って後手陣を乱します。伊藤七段が飛車取りに香を打つと、藤井棋王も残り10分となり、飛車を角と刺し違えてから、8筋に角を打ち込んで金に当てます。
伊藤七段の攻防の角
伊藤七段が6筋に角を打ち、金と"と金"に紐を付けつつ後手陣の金を睨むと、藤井棋王は手堅く5筋に銀を打って角に当てます。伊藤七段は飛車を後手陣に打ち込んで金に当て、藤井棋王が持ち駒の桂を投じて金取りを受けると、角で銀を食いちぎります。1分将棋に突入した伊藤七段が取られそうな金を上がって"と金"に紐を付けると、藤井棋王はもう1枚の角を先手の玉頭に打ち込んで詰めろを掛けます。
一手一手の寄り
伊藤七段が金を5筋に寄せて詰めろを逃れると、藤井棋王は金を6筋に寄せてぶつけます。この金を"と金"で取ると飛車で金を取られてしまうので、伊藤七段は角取りに銀を打ちますが、藤井棋王は角で銀を食いちぎってから7筋で金交換し、取った金を先手玉の腹にタダ捨てします。先手玉は一手一手の寄り形となり、伊藤七段は秒読みの声を聞きながら投了を告げました。
まとめ
本局は藤井棋王が恐らく初めて飛車先の歩を伸ばした角換わりの誘いに応じず、村田六段曰く「豊島流村田システム」の将棋となりました。予期せぬ展開に伊藤七段は長考を重ねてバランスを保ち、7筋に"と金"を作って攻め掛かりましたが、藤井棋王は角を犠牲に飛銀交換し、先手の歩切れを突いて瞬く間に寄せ切りました。
本シリーズのまとめ
本シリーズは伊藤七段が角換わりの深い研究を活かし、第一局は後手番ながら持将棋に逃れ、第二局は敗れたものの中盤までリードする好勝負となりました。藤井棋王は第三局では早々に伊藤七段の研究を外し、第四局では伊藤七段との研究勝負を回避して主導権を握りました。
記者会見で藤井棋王は「第一局の持将棋から始まって、どの将棋も難しかったと思うので、その中で結果を出すことができて嬉しく思っています」と話しました。いつも通り謙虚な発言が続く中、「今期は持ち時間の長い対局では手応えのある内容のものもいくつか指すことができたので、これまでより成長できたところもあった1年だったと思います」と自信も覗かせており、来年度は更に強い将棋を魅せてくれることを楽しみにしたいと思います。
棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou) に従い、インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。