「観る将」が観た第14期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦
3月15日に、マイナビ女子オープン挑戦者決定戦が行われました。
準決勝で甲斐女流五段を破った伊藤女流三段と、2回戦で里見女流四冠を破り準決勝で千葉女流四段を破った塚田女流初段の顔合わせとなりました。
伊藤女流三段は、10歳で奨励会に入会しましたが、20歳の時に女流棋士に転向しています。これまで女流タイトル戦に7回登場していますが、タイトル獲得経験はありません。昨年度は優秀女流棋士賞と女流最多対局賞を獲得しており、各棋戦で安定して上位に進出しています。先日は女流王位戦でも挑戦者決定戦に進出しましたが、惜しくも山根女流二段に敗れて挑戦権を逃しています。
塚田女流初段は、王座獲得経験のある塚田九段の長女であり、母親も女流棋士という将棋一家に育ち、2014年に16歳で女流棋士となった新鋭です。本局に勝てば、史上初めて親子ともにタイトル戦登場ということになります。今期は白玲戦順位決定リーグF組でもトップを並走する等、他棋戦でも活躍が目立ちます。
将棋は相居飛車となり、先手の塚田女流初段は左美濃、伊藤女流三段は矢倉模様に構えます。伊藤女流三段が角交換から王手で敵陣に角を打ち込むと、塚田女流初段も飛車銀両取りに角を打ち、再度角交換して相手が馬を作るのを阻止します。塚田女流初段は交換した角を敵陣に打ち込み飛車を追います。ここで昼休となりましたが、塚田女流初段が少し指し易い局面になっているようです。
昼休明け、伊藤女流三段は8筋に歩を垂らし、3筋の歩を突き捨てて敵陣に角を打ち込みます。塚田女流初段も敵陣に打った角で金を食いちぎりますが、伊藤女流三段は取った角も敵陣に打ち込み攻め立てます。伊藤女流三段は馬を作ってから飛車取りに金を打ちましたが、塚田女流初段は飛車を逃げると金をタダで取られるので逃げられません。形勢は伊藤女流三段に傾いているようです。
伊藤女流三段は、取った飛車をすかさず敵陣に打ち込みます。塚田女流初段も4筋から反撃しますが、飛車を取る代わりに相手に金を渡してしまったため、伊藤女流三段の△7五桂が決め手となりました。塚田女流は最後まで粘りますが、伊藤女流三段は金のタダ捨てから即詰みに討ち取りました。
本局は序盤から大駒を取り合う激しい将棋となりましたが、伊藤女流三段の仕掛けに対し、塚田女流初段が上手く切り返して優位に立ったように見えました。しかし昼休後に伊藤女流三段が反撃に転じてからは、付け入る隙を与えず一気に寄せ切った印象です。
この結果、伊藤女流三段は4月に開幕する五番勝負で、西山女王に挑戦することになりました。番勝負で西山女王と対決するのは初めてとなりますが、対局後のインタビューで「西山さんとの番勝負は大変だと思いますので、そういったところも楽しめたらいいかなと思います」と語っています。女流棋界の二強の一角を崩すべく健闘を期待したいと思います。
塚田女流初段は惜しくもタイトル初挑戦は逃しましたが、2回戦の里見女流四冠との初対局では、終盤に秒読みの中、竜捨ての大技を魅せて勝利する等、今後の飛躍を予感させる活躍でした。若手女流棋士の期待の新鋭の一人として、今後も注目していきたいと思います。