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NHKスペシャル「四冠誕生 藤井聡太 激闘200時間」を観て

12月12日、NHKスペシャル「四冠誕生 藤井聡太 激闘200時間」が放映されました。200時間というのは、藤井聡太竜王と豊島将之九段が今年、王位戦・叡王戦・竜王戦と3つのタイトル戦で14局戦った長い時間を示しています。

結果は王位戦で防衛を果たした藤井さんが、叡王戦・竜王戦と奪取に成功し史上最年少四冠となりました。結果だけを見れば藤井さんが一方的に勝ち、豊島さんが無冠に転落したということになりますが、内容的には紙一重の激闘であり、現在の将棋界における最高峰の戦いであったことは間違いありません。この番組は2人へのインタビューを中心に、谷川浩司九段、羽生善治九段、杉本昌隆八段、畠山鎮八段、中村太地七段らの証言で構成されていました。

特に印象的だったのは、竜王戦第四局の最終盤に豊島さんが99分の大長考をした場面です。豊島さんは「時間攻めにして、できるだけ相手に考える余裕を与えないようにしたほうが、(勝つ)確率はいいのかもしれないですけど、それよりは自分が有利だったとしたときにちゃんとさせるように時間を使いたい」「自分なりに納得いくまで考えたかった」と話しています。相手の力を認め、小細工ではなく自分が納得できる最高の手を指したかったということだと思います。豊島さんが充分考え納得して選んだ手順は、藤井さんが自分に勝ち筋があることを発見しており、結果的に豊島さんは竜王位を失うことになりました。

驚かされたのは、この場面に対して2人が個別に似たような想いを語っていることです。
藤井さん
「豊島さんが長考されて、勝敗を抜きにしてその局面とお互い向き合うことができたというのは、なんというか難しいですけどすごくよかった」
「ずっとその局面のことがそのあともずっと浮かんでいる感じだった」
「そういった純粋な将棋の楽しさを共有できたところがあったのは、それはすごく本当にうれしいことだなと思います」
豊島さん
「もうちょっと続けたかったというのはありますけど、対局がどう、スコアがどうとかじゃなくて、純粋にやってる瞬間が気持ちいいというかすごく集中していて、言葉にするのは難しいですけど気持ちいい時間というか瞬間というか」
「(藤井さんが)すごい先のほうまで正確に読まれているので、自分もそこに到達してもうちょっと先の局面まで指してみたかった」

豊島さんが投了を告げた後、記者からの質問に悔しいというよりむしろ清々しい表情で受け答えされていた姿が思い出されます。あの日の終局前後の数分間、2人は無言のまま同じ想いで振り返っていたんですね。2人の崇高な会話に他者が入り込む余地はまったくなく、谷川九段の言う通り「竜王戦第四局はいまの時代のひとつの傑作」と称えるしかありません。両雄がこれから先、いくつもの素晴らしい物語を魅せてくれることを確信し、見守っていきたいと思います。

番組で紹介されなかった言葉も含め、NHKの単独インタビューの内容が下記記事にまとめられています。ご興味のある方は是非ご覧ください。
藤井聡太と豊島将之が語る「竜王戦」単独インタビュー

竜王戦第四局の直後に下記記事を投稿しました。ご参考まで。



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