第30期銀河戦決勝トーナメント準決勝 藤井竜王vs豊島九段
12月20日に、銀河戦決勝トーナメント準決勝第1局が放映されました。数々の名勝負を繰り広げてきた藤井聡太竜王と豊島将之九段の顔合わせとなっています。藤井竜王は本戦トーナメントGブロック最終勝ち残り者で、決勝トーナメントでは中村(修)九段と永瀬王座を降して勝ち上がっています。豊島九段はDブロック最終勝ち残り者で、星野五段と糸谷八段を破っています。
戦型は角換わり相早繰り銀
振り駒で先手となった豊島九段が角換わりに誘導し、藤井竜王は受けて立ち相早繰り銀の将棋となります。藤井竜王が7筋の歩を交換して銀を前進すると、豊島九段は2筋を継ぎ歩で攻めます。この歩を取ると両取りの筋があるので、藤井竜王は7筋の銀頭を歩で叩いて引かせ、飛先の歩を交換します。豊島九段が2筋の歩を取り込むと、藤井竜王は△2二歩と受けます。
定跡化された手順
この辺りまでは定跡化された手順のようで、お互いに陣形の整備に戻ります。豊島九段が▲2五飛と浮いて7筋の銀に当てると、藤井竜王は3筋の歩をぶつけて防ぎます。藤井竜王は7筋の歩を成り捨て、1筋に桂を跳ねて先手の飛車を引かせてから、桂取りに△7六歩と打ちます。
豊島九段の大技
豊島九段は桂の二段飛びで▲5三桂成と成り捨て、玉で取らせて後手陣を乱し、1筋の歩をぶつけて後手の端桂を攻めます。藤井竜王は△8五桂と打って7筋突破を図りますが、豊島九段は構わず▲4一角と打ち込みます。この角はすぐに取られてしまいそうですが、豊島九段は▲7六銀とタダ捨てし、角で金を食いちぎって飛銀両取りに▲7五金と打つ大技を魅せます。
駒損の回復
駒割りは角桂と金の交換で後手が得していますが、攻めが途切れて自陣も乱されてしまい、豊島九段がわずかにリードを奪ったようです。藤井竜王は銀をぶつけて交換し、飛車の横利きを通して3筋に回しますが、豊島九段は8筋の歩を突いて桂を取り駒損を回復します。
豊島九段の受け
藤井竜王は△3六飛~△2六銀と3筋突破を図りますが、豊島九段は冷静に▲4六銀と受けます。藤井竜王が金取りに△8九角と打ち込むと、豊島九段は銀を打って金に紐を付けます。藤井竜王は△2七銀と打って畳み掛けますが、豊島九段が▲5八玉と早逃げすると攻めが続かず、形勢は豊島九段に大きく傾いてきたようです。
一瞬の隙
藤井竜王は△2五桂と跳ねて援軍を送りますが、豊島九段は▲3八金と上がり、3筋の守りを強化しつつ飛車の横利きを通して角に当てます。藤井竜王はやむなく角で金を食いちぎり、△3七桂成と飛び込みます。豊島九段は飛車取りに▲2五角と打ちますが、藤井竜王は王手で△4七成桂と捨て、△4六飛とタダ捨てし、王手角取りに△3五金と打ちます。豊島九段の一瞬の隙を突いた藤井竜王が、絶妙の切り返しで形勢を互角に戻します。
一撃必殺の決め手
豊島九段は歩を打って後手からの角打ちを防ぎますが、藤井竜王は先手の玉頭に△4六桂と打って金に当てます。この桂はタダで取れますが、取ると玉が危険地帯に呼び出され、金をかわしても王手飛車から王手金取りが掛かるという、一撃必殺の決め手になっているようです。
正確な受け
意表を突かれた豊島九段が仕方なく玉で桂を取ると、藤井竜王は角を打って先手玉の退路を狭めます。豊島九段は▲5四桂~▲3三飛と頓死筋もある連続王手で後手玉に迫りましたが、藤井竜王は正確に受けて罠をかいくぐり、先手玉を受けなしに追い込み勝ち切りました。
まとめ
本局は角換わり相早繰り銀の定跡形から藤井竜王が仕掛けましたが、豊島九段は角切りの大技で凌いで難解な中盤戦に突入しました。藤井竜王は飛車を3筋に回して攻め続けましたが、豊島九段は冷静な受けでリードを拡げ勝勢の局面を築きました。藤井竜王は先手陣に生じた一瞬の隙を見逃さずに強く反発して局面を混沌とさせ、先手玉頭への桂捨ての絶妙手で形勢を入れ替えました。両者の技の応酬により、早指しとは思えない濃密な内容の名局だったと思います。
勝った藤井竜王は27日に放映される決勝に駒を進め、2度目の優勝を目指します。今年度の藤井竜王は、JT杯に優勝し、銀河戦とNHK杯は勝ち残り、1月に本戦が始まる朝日杯を含め、4つある全棋士参加の一般棋戦を完全制覇する可能性を残しています。何が起こるかわからない早指し棋戦で、1回負ければ終わりの一般棋戦完全制覇は、藤井竜王にとって8つのタイトル戦完全制覇より難しい偉業だと思いますが、滅多にないチャンスでもあり達成を期待したいと思います。
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