「観る将」が観た第44回JT杯準決勝 藤井JT杯vs永瀬九段
10月21日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)準決勝、藤井聡太JT杯と永瀬拓矢九段の公開対局が、大阪市中央体育館メインアリーナで行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に1分の考慮時間5回)の早指し棋戦です。
前回優勝の藤井JT杯は、2回戦で菅井八段を破って勝ち上がっています。永瀬九段は2回戦で山崎八段を降し、第41回以来2度目の決勝進出を目指します。両者の対戦成績は藤井JT杯の14勝6敗で、永瀬九段としては先日まで行われていた王座戦五番勝負のリベンジマッチとなります。
両対局者が紹介され、藤井JT杯が淡い藤色の着物と灰色の袴に紺色の羽織をまとい、永瀬九段が濃い紫色の着物と鶯茶の袴に茶系のグラデーションの羽織をまとって登場すると、会場は盛大な拍手に包まれます。
戦型は角換わり
観客の中から抽選で選ばれた少年の振り駒で先手となった永瀬九段が、角換わりに誘導して3筋の歩をぶつけると、藤井JT杯は受けずに7筋の歩をぶつけます。永瀬九段は研究を外されたか少し時間を使って7筋の歩を取ると、藤井JT杯は△6五桂と跳ねます。永瀬九段は銀を6筋に上がってかわし、藤井JT杯が飛先の歩を交換すると、歩で飛車を追い返します。
桂頭の歩
藤井JT杯は飛車を三段目に引き、永瀬九段が3筋の歩を取り込んでから飛先の歩を交換すると、△2三銀と引いて飛車を追い返します。永瀬九段は飛車を下段に引き、藤井JT杯が△2四歩と打って傷を消すと、▲4七銀と上がります。藤井JT杯は初めて手を止め、△8八歩と桂頭を叩き、永瀬九段が金で取ると、8筋の歩を合わせます。
飛車切りの強襲
永瀬九段が持ち時間を使い切り、▲8六同歩と応じると、藤井JT杯は△8六同飛~△6六飛と銀を食いちぎり、△5七桂成と成り捨てて玉で取らせ、王手金取りに△7九角と打ち込みます。ここで解説の谷川十七世名人が封じ手を宣言し、永瀬九段が封じました。
藤井JT杯の馬
永瀬九段の封じ手は、金に紐を付ける合い駒で、次の一手クイズの候補にも挙げられていた▲6八飛でした。藤井JT杯は3筋の桂頭を歩で叩き、永瀬九段が銀で取ると、△5六銀と玉頭に叩き込みます。永瀬九段は△5六同玉と応じ、藤井JT杯が角で飛車を取り返して馬を作ると、▲4八金と上がって守りを補強します。
馬切りの強襲
藤井JT杯もここで持ち時間を使い切り、更に考慮時間を1回使って△5九飛と王手すると、永瀬九段は飛交換し、考慮時間を2回使って▲5七銀と金に紐を付けて守ります。藤井JT杯は△4八馬と金を食いちぎり、永瀬九段が銀で取ると、王手金銀両取りに△5八飛と打ち込みます。
藤井JT杯の竜
永瀬九段が▲4七玉と引いて銀に紐を付けると、藤井JT杯は△8八飛成と金を取って竜を作ります。永瀬九段が攻防に▲6七角と打つと、藤井JT杯は考慮時間を2回使って△2六金と挟撃態勢を作ります。永瀬九段が残り3回の考慮時間をすべて使って▲4五桂と跳ねると、藤井JT杯は考慮時間を1回使って△3六金と銀を取って王手します。
緩みない攻撃
永瀬九段が玉で金を取ると、藤井JT杯は△3五銀と王手します。取ると1手詰めなので、永瀬九段は▲4七玉と引き、藤井JT杯が△4六銀と追撃すると、▲3六玉とかわします。藤井JT杯が更に△3五金と王手すると、攻防共に見込みがなくなった永瀬九段は投了を告げました。
まとめ
本局は永瀬九段が序盤から時間を使い、守勢に立たされる展開となりました。藤井JT杯は飛車切りの強襲から先手陣に攻め込み、永瀬九段の反撃を許さず一気に寄せ切りました。
藤井JT杯は3回連続の決勝進出となり、連覇に向けあと1勝となりました。決勝は11月19日、渡辺(明)九段と糸谷八段の勝者との対局となります。
八冠制覇の際、今後の目標として「まずは実力をつけること、その上で面白い将棋を指したい」と話した藤井JT杯は、その後行われた竜王戦第二局に続き、本局も最短の勝ちを目指す「面白い将棋」を魅せており、勝たなければいけない重圧から解放されたかのように感じます。
将棋日本シリーズJTプロ公式戦の棋譜等は、公式ホームページをご確認ください。