「観る将」が観た第4回ABEMAトーナメント予選Dリーグ第三試合
6月26日にABEMAトーナメント予選Dリーグ第三試合が放映されました。チーム永瀬「川崎家」対チーム広瀬「早稲田」の顔合わせとなっています。両チームとも初戦に勝ち予選突破を決めていますが、この試合の勝者が1位抜けとなる大事な一戦となっています。
■一局目 屋敷九段vs北浜八段
先手の北浜八段は、初手▲5六歩から中飛車を採用し5筋から積極的に仕掛けます。屋敷九段は、中央に金銀を集結させ厚みで押し返します。屋敷九段が△1三角と覗くと、北浜八段は1筋から仕掛けて突破します。北浜八段は中央からも逆襲し勝勢かと思われましたが、屋敷九段は飛車を5筋に回して守りに利かせます。時間に追われた北浜八段が攻めあぐねると、屋敷九段は玉を右辺に逃がします。最後は屋敷九段が入玉を果たして、北浜八段の投了となりました。
■二局目 屋敷九段vs丸山九段
チーム永瀬は、意表を突く屋敷九段の連投です。後手の丸山九段は得意の一手損角換わりを採用します。屋敷九段が4筋の位を取って銀矢倉に構えると、丸山九段は右玉に構え相手からの攻めを待ちます。これを見た屋敷九段が穴熊の堅陣に組み替え飛車を5筋に振って仕掛けると、丸山九段も角を敵陣に打ち込み馬を作って対抗します。丸山九段は相手の玉頭から崩しに掛かりましたが、屋敷九段は▲1八角と遠見の角で相手玉に睨みを利かせて反撃し、鮮やかに寄せ切りました。
■三局目 屋敷九段vs広瀬八段
チーム永瀬は連勝して勢いに乗る屋敷九段の3連投です。チーム広瀬はリーダーが流れを取り戻しに登場します。先手の広瀬八段が矢倉に誘導すると、屋敷九段も受けて立ちお互いにがっちり組み合います。1筋の位を取った広瀬八段が5筋、2筋と仕掛けると、屋敷九段は9筋から反発します。飛車と角を取り合った後、先に屋敷九段が敵陣に飛車を打ち込み2枚飛車で攻め立てた辺りは優勢に見えましたが、広瀬八段も2枚の馬を作って対抗します。最後は相手からの攻撃を凌いだ広瀬八段が、鮮やかに即詰みに討ち取りました。
■四局目 永瀬王座vs丸山九段
後手の丸山九段はまたしても一手損角換わりを採用し、永瀬王座も予定通りという雰囲気で指し進め、両者とも持ち時間を6分以上に増やしています。丸山九段が△6三金と上がるのを見て、永瀬王座は飛車と角を交換し▲2七角と金取りに打ちます。丸山九段が逃れると、更にもう1枚の角を飛車金両取りに打ち込みます。時間を使わされた丸山九段は反撃を試みますが、丁寧に応じられて攻めが続きません。最後は詰めろ竜取りを掛けられた丸山九段の投了となりました。
■五局目 増田六段vs北浜八段
先手の北浜八段が意表を突いて向かい飛車を選択しましたが、増田六段は動じず淡々と持ち時間を増やします。北浜八段が穴熊に囲うのを見た増田六段は、左美濃から銀冠に組み替えます。北浜八段は角と銀を連携させて攻め掛かりましたが、増田六段は玉を1筋に寄せて相手の角のラインから逃れます。お互いに攻め合う激しい将棋になりましたが、増田六段が△8六歩から歩の連打で瞬く間に穴熊を攻略し、一気に寄せ切りました。
■六局目 増田六段vs広瀬八段
早くも後がなくなったチーム広瀬はリーダー投入です。後手の広瀬八段は意表を突いて三間飛車穴熊を採用します。五局目に鮮やかな穴熊攻略を見せた増田六段は、本局では自らも穴熊に囲い、お互いに8筋の歩を突いて銀冠穴熊に組み替えます。広瀬八段が左銀を前進させて4筋から攻め掛かると、増田六段も1筋を突破します。お互いに大駒を打ち合っての寄せ合いとなりましたが、最後は広瀬八段の△8七竜が詰めろ逃れの詰めろとなり、勝利を掴みました。
■七局目 永瀬王座vs広瀬八段
流れを渡したくないチーム永瀬はリーダーが登場し、リーダー同士の対決となりました。先手の広瀬八段が矢倉に誘導し、永瀬王座は急戦調の駒組みを進めます。永瀬王座が先に5筋から仕掛け銀取りに△6五桂と跳ねると、広瀬八段は放置してなんともう1枚の銀を相手の桂の利きに差し出します。永瀬王座も銀を取らずに自らの銀を犠牲に桂を奪い、奪った桂を△7七桂と打ちます。銀より桂が大切という将棋になりましたが、一連のやり取りで広瀬陣は崩壊し、永瀬王座の勝勢に見えました。しかし広瀬八段も▲1一角成と馬を作ってから挟撃体制を作り、瞬く間に受けなしに追い込みます。永瀬王座は連続王手で相手玉に迫りましたが、広瀬八段が逃げ切り大逆転勝利となりました。
■八局目 増田六段vs北浜八段
リーダーの連勝で勢いづいたチーム広瀬に対し、チーム永瀬はストッパーに増田六段を投入します。これまでの2局を作戦勝ちから攻め急いで逆転されていた北浜八段は、作戦会議での宣言通り後手番でじっくりした駒組みを進めます。四間飛車で美濃囲いを選択した北浜八段に対し、先手の増田六段は6筋の位を取り角交換後に▲6六角と自陣角を据えます。北浜八段は馬を作りましたが、増田六段は"と金"を作って敵玉に迫ります。優勢となった増田六段は9筋から端攻めを仕掛けて寄せに入りますが、北浜八段も9筋から反発して敵玉に迫ります。難解な終盤戦となりましたが、北浜八段が香の王手から即詰みに討ち取り逆転勝ちを収めました。
■九局目 永瀬王座vs丸山九段
フルセットにもつれ込み、再度振り駒の結果後手となった丸山九段は当然のように一手損角換わりを採用します。四局目に△6三金型の弱点を突かれた丸山九段は、交換した持ち駒の銀を自陣に打ってから△3八歩と垂らし、先日の叡王戦での藤井二冠戦と似た手筋を見せます(恐らく本局の方が先に収録されていると思いますが)。丸山九段は馬を作って盤面中央に据え、相手の玉頭から攻め掛かり優勢の局面を築きます。負けられない永瀬王座が必死に抵抗すると、時間に追われた丸山九段は攻め切れません。永瀬王座が反撃に転じると鮮やかに寄せ切り、逆転勝ちでチームに勝利をもたらしました。
【チーム永瀬 5勝 vs チーム広瀬 4勝】
優勝候補同士の対戦だけに、フィッシャールールらしく逆転劇の多い白熱した好勝負が続きました。
チーム永瀬の勝因は、やはり一局目から3連投で2勝1敗と勝ち越した屋敷九段の奮闘だと思います。七局目に逆転負けしながら九局目に勝利を収めた永瀬王座も、逞しい精神力を見せました。屋敷九段は初出場ですが、フィッシャールールに慌てることもなく終始安定した戦いぶりを見せ、前回の優勝メンバー2人を擁するこのチームが、有力な優勝候補であることを強く印象付けました。
チーム広瀬は、リーダーがチーム永瀬の3人を撃破した強さが輝きます。北浜八段も終盤力を生かした粘り強い将棋を魅せてくれました。丸山九段は得意な戦型を連採して、序盤は持ち時間を6分以上に増やしつつ優勢の局面を築いています。中盤以降の時間の使い方に慣れてくれば、本戦では貴重な戦力になりそうです。
予選Dリーグは、チーム永瀬「川崎家」が1位通過、チーム広瀬「早稲田」が2位通過となりました。穴がないチーム永瀬とリーダーが強力なチーム広瀬が、本戦でも力を発揮し上位進出することを期待したいと思います。
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