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「観る将」が観た第81期順位戦A級 藤井竜王1回戦

6月22日に順位戦A級1回戦、藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)と佐藤康光九段の対局が、新設された名古屋将棋対局場で行われました。


佐藤康光九段のプロフィール

佐藤九段は1987年プロ入りの52歳でタイトル獲得は通算13期、永世棋聖の資格も持つ強豪です。日本将棋連盟会長の激務をこなしながらも力強い将棋は健在で、前期も永瀬王座や豊島九段に勝ってA級残留を果たしています。昨年の棋王戦挑決トーナメントで魅せた「暴銀」など、その独創的な棋風は多くの将棋ファンを魅了し続けています。両者の公式戦での対局は、3年前に1局行われており、佐藤九段が注文を付けた力戦調の将棋を藤井七段(当時)が制しています。

佐藤九段が向かい飛車に

この日行われた開場セレモニーに和服で参列した佐藤九段が和服姿のまま対局場に登場し、続いて少し緊張した面持ちの藤井竜王が紺のスーツ姿で入場します。佐藤九段の作戦が注目されましたが、角道を止めてから10手目に飛車を2筋に振り対抗型の将棋となりました。お互いに小刻みに時間を使っての駒組みが進み、藤井竜王がミレニアム囲いを匂わせると、佐藤九段は囲いを明確にしないまま24手目を考慮中に昼休となりました。各6時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が5時間17分、佐藤九段が4時間54分となっています。

藤井竜王の仕掛け

昼休が明けると、佐藤九段は金を上がって先手からの急戦に備えてから穴熊に囲い、藤井竜王もミレニアムを完成します。藤井竜王が67分の長考で6筋の歩をぶつけると、佐藤九段も28分考えて歩交換に応じ、角取りに△6五歩と打ちます。藤井竜王は▲5五角とかわしますが、佐藤九段は△8四角と覗いて角成を狙います。藤井竜王が▲6四歩と金頭を叩いて引かせてから飛車を3筋に寄せて角成を防ぐと、佐藤九段が次の50手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は全くの互角、残り時間は藤井竜王が2時間26分、佐藤九段が2時間37分と拮抗しています。

藤井竜王の攻勢

夕休が明けると、佐藤九段は先手の飛車の利きがなくなった2筋の歩を突き出します。藤井竜王が3筋の歩を突き捨ててから▲8六歩と角頭を狙うと、佐藤九段は△6六角とぶつけます。この数手のやり取りで、AIの評価値は藤井竜王の70%と傾いてきました。藤井竜王が27分の熟考で▲6三歩成と踏み込むと、佐藤九段は何度かため息をつきながら△5五角と角を取ります。藤井竜王は"と金"で金を取り、後手が△1九角成と香を取って馬を作る代わりに、更に▲7一"と"ともう1枚金を剥がして穴熊を崩します。

佐藤九段の強烈な反撃

藤井竜王が▲9五歩と端から攻めると、佐藤九段は△9六香と打って反撃します。藤井竜王は33分考えて▲9六同香と取り、佐藤九段は△9五歩と伸ばします。藤井竜王は▲3五飛と走りますが、佐藤九段は構わず△9六歩と香を取り込みます。先手陣は横からの攻めには強そうですが、端から攻められると右方向への逃げ道がありません。藤井竜王は▲9三歩と香頭を叩いて▲8五桂と根元の香を取りにいきますが、残り時間は50分となりました。佐藤九段は△9二飛と回り、香を取られると△9三同飛と攻めをつなぎます。ABEMAでは屋敷九段が「先手を持って指せる気がしない」と解説しています。

玉頭の攻防

藤井竜王が▲8七金と上がって端を受けつつ玉の退路を作ると、佐藤九段は△6六香と打って挟撃態勢を作ります。藤井竜王は▲9九香と端を補強しつつ反撃を見せますが、佐藤九段は△9七桂と王手で打ち込みます。佐藤九段の残り時間も46分となりました。藤井竜王が銀で桂を取ると、佐藤九段は△6八香成と銀を取ってから△9七歩成と銀を取ります。佐藤九段は更に香を吊り上げ△9六同飛と食いちぎる勝負手を放ち、金で取らせて△8七銀と詰めろを掛けます。藤井竜王が手堅く▲8八金と受けると、佐藤九段は△9六銀不成と金を取ります。後手の猛攻が途切れ、AIの評価値は藤井竜王の81%と大きく傾いてきました。

頓死筋

藤井竜王が▲9三歩と打って詰めろを掛けると、佐藤九段は残り21分まで考えて△9三同桂と取ります。藤井竜王がノータイムで▲3一飛成と飛び込むと、佐藤九段は△8一金と持ち駒を投じて粘ります。藤井竜王が▲6三桂と追撃すると、佐藤九段は△8二馬と引いて固めます。藤井竜王が▲7三香と攻め駒を足すと、佐藤九段は△8七香と打って下駄を預けます。藤井竜王は▲7一香成と銀を剥がしますが、屋敷九段は桂を渡すと先手玉に頓死筋があると解説しています。

激闘の終息

藤井竜王が慎重に残り9分まで考えて▲7三金と桂を渡さずに詰めろを掛けると、佐藤九段は残り2分まで考えて△6七角と王手で打ち込みます。藤井竜王は香で合い駒し、扇子を畳に置いて相手の指し手を待ちます。1分将棋に突入した佐藤九段は秒読みの声を聞きながら、次の手を指さずに「負けました」と投了を告げました。

まとめ

本局は佐藤九段の向かい飛車に対して、藤井竜王が公式戦では初めてミレニアム囲いを採用し、お互いに想定しづらい展開となりました。藤井竜王の仕掛けに対して佐藤九段も厳しく対応しましたが、夕休明けには一気に形勢が傾いたように見えました。しかし藤井竜王も見落としていたと言う端からの力強い反撃で、一手間違えれば逆転というギリギリの攻防が続きました。藤井竜王は最後まで慎重に時間を使って正確に受け切り、万策尽きた佐藤九段の投了となりました。同時に行われていたB級2組の対局より一足早く終局し、藤井竜王は記念すべき名古屋将棋対局場における最初の勝者となりました。

藤井竜王は最年少名人獲得に向け幸先の良いスタートを切り、今後の順位戦A級での戦いに向けて「しっかりコンディションを整えて臨まなければいけないと思う」と語りました。強豪揃いのA級において名人への挑戦権獲得は容易な道ではありませんが、2回戦以降も着実に白星を重ねて欲しいと期待しています。

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