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「観る将」が観た第79期順位戦B級2組 藤井二冠9回戦

1月6日に行われた順位戦B級2組9回戦、藤井二冠と中村(修)九段の対局の感想です。藤井二冠はここまで7勝0敗と単独トップに立っていますが、中村九段も6勝2敗と昇級の可能性を残しており、両者ともに負けられない一局となりました。

中村九段は、昭和55年に四段に昇段した強豪グループ「55年組」の一人で、王将のタイトルを2期獲得しています。タイトルを獲得した頃は新感覚の棋風が不思議流と呼ばれ、居飛車も振り飛車も指しこなすオールラウンダーです。藤井二冠とはこれまで銀河戦での対局があり、藤井二冠の1勝0敗です。

本局への意気込みが感じられる和服で登場した中村九段ですが、先手番での戦型が注目されました。角換わり風の出だしでしたが、中村九段が角道を止め定跡のない力戦調の将棋となりました。中村九段としては、最新の流行型を避け、藤井二冠が見慣れない局面に誘導したのかもしれません。藤井二冠は雁木風に構えましたが、△4二角~△3三金と上部に手厚い形に組み直します。

中村九段が5筋の位を取ったのに対し、藤井二冠は△5四歩と仕掛けてから8筋を継ぎ歩攻めします。中村九段も2筋から反発しますが、藤井二冠に丁寧に受けられ突破口を開けません。更に角道を開けてから▲4四銀と勝負にいきますが、ここで藤井二冠の指した△8五桂が終盤には相手玉の脱出路を塞ぐ絶妙手だったようです。この手をAIが最善手として推奨しているのを見た屋敷九段は「見えづらい。これを指したら恐れ入りましたという感じ」と解説していました。

銀交換の後、中村九段は▲7一角成と飛車取りに角を成りましたが、藤井二冠は放置して△3七歩成~△3四銀と相手の飛車を取りにいきます。飛車の取り合いになると自陣に飛車を打たれた時の受けが難しいと見た中村九段は、取れる飛車を取らず、取られそうな飛車も逃げず、6筋に底歩が打てるよう▲6四歩と進めます。この辺りはプロらしい応酬でしたが、藤井二冠の読みが勝っていたようで、形勢は大きく傾いていきました。

飛車を取った藤井二冠は、歩の連打で相手陣を崩し△2四角と待望の王手を掛けます。中村九段は馬の利きを活かした合い駒で逃れますが、ここで藤井二冠が取られそうだった飛車を押し売りする△8一飛(タダ捨て!)で馬筋を逸らしたのが決め手となりました。最後まで懸命の粘りを見せた中村九段でしたが、飛車と角と中盤に跳ねた桂馬に包囲されて受けがなくなり、無念の投了となりました。

本局は、中村九段の飛角金銀桂による攻めを中盤まで丁寧に凌いだ藤井二冠が、飛車の取り合いからは鮮やかな寄せを魅せてくれました。中村九段には特に悪手はなかったように思いますが、△8五桂、△3四銀、△8一飛といった好手で徐々にリードを拡げた、藤井二冠らしい完勝だったと思います。

これで藤井二冠は8勝0敗となり、残り2局で1勝すれば昇級が確定します。終局後に「残り2局が大切」とコメントした藤井二冠に死角はありませんが、全勝でB級1組への昇級を期待したいと思います。


※日本将棋連盟HPでの藤井聡太二冠の呼称が、藤井聡太王位・棋聖に変わった気がします。何かルールが変わったのでしょうか?
ご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけると助かります。

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