「観る将」が観た第1回達人戦立川立飛杯本戦
10月24-25日、新設された達人戦立川立飛杯の本戦準々決勝から決勝が順次行われました。達人戦は、4月1日付で満50歳以上の現役棋士のみが参加し、公開対局で行われる本戦は持ち時間30分、切れたら30秒未満で行われます。
準々決勝
シードされた永世称号の資格を持つ4人と、予選を勝ち上がった4人による準々決勝の結果、以下の通り羽生世代の4人が翌日の準決勝に駒を進めました(左が勝者)。
第1局 森内俊之九段 - 阿部隆九段
第2局 羽生善治九段 - 深浦康市九段
第3局 丸山忠久九段 - 谷川浩司十七世名人
第4局 佐藤康光九段 - 藤井猛九段
私は第2局を観戦しました。深浦九段は全盛期の羽生九段と互角の戦いを繰り広げて地球代表とも呼ばれており、達人戦の場でどのような将棋を魅せてくれるのか楽しみにしていました。
深浦九段の辛抱
先手の羽生九段が矢倉調の出だしを見せると、深浦九段は得意の雁木で対抗します。両者とも淡々と駒組みを進めますが、羽生九段が2筋の歩をぶつけて角交換し、宙を舞うような手つきで▲5五歩とぶつけると、深浦九段は少し時間を使って△3四歩と打って自陣の隙を消します。羽生九段も少し時間を使って5筋と7筋の歩を取り込み、更に4筋の歩もぶつけると、深浦九段は△5四歩と打って飛金両取りの筋を消して辛抱します。
羽生九段が飛車を転回
羽生九段は7筋の銀頭を叩いてから▲7六飛と転回し、深浦九段が△6四角と打って7筋を受けつつ3筋の桂に当てると、▲2六角と打って桂に紐を付けつつ後手陣を睨んで切り返します。深浦九段が3筋の歩を伸ばして角の利きを止めると、羽生九段は▲4六銀と立って攻撃に厚みを加えます。
深浦九段の勝負手
深浦九段は苦しげな表情で7分程熟考し△6六歩とぶつけて飛車の横利きを止め、羽生九段が飛車で取ると、△6五桂と飛頭に跳ねる勝負手を放ちます。取ると銀を素抜かれるので、羽生九段は▲3五銀と攻め合いを選択し、深浦九段は△7七桂成と銀桂交換します。
羽生九段の攻勢
持ち時間を使い切って30秒将棋となった深浦九段が玉を6筋に早逃げすると、羽生九段は歩と桂で後手の角を攻めます。深浦九段は△7五角とかわして飛車に当て、羽生九段が飛車を7筋に寄せて角に当て返すと、力強く△7四銀と出て角を支えます。羽生九段は4筋の歩を成り捨て、▲4四銀とぶつけて金銀交換し、深浦九段が△7三銀と受けると、▲7五飛と角と刺し違えてから、▲7四歩と銀頭を叩きます。
角を見捨てての寄せ
深浦九段が王手で△6九銀と捨て、王手桂取りに△4九飛と打ち込むと、羽生九段は5筋に底歩を打って凌ぎます。深浦九段は△4五飛成と桂を取って角に当てますが、羽生九段は構わず▲7三歩成と銀を取って攻め込み、角を取らせる代わりに▲7四桂と打って詰めろを掛けます。深浦九段は顔を紅潮させて秒読みの声を聞きながら投了を告げました。
準決勝
準決勝は両局とも、かつての名人戦七番勝負の再現カードとなり、羽生九段と丸山九段が決勝に駒を進めました(左が勝者)。
第1局 羽生善治九段 - 森内俊之九段
第2局 丸山忠久九段 - 佐藤康光九段
決勝
決勝は大本命の羽生九段と、予選から勝ち上がってきた丸山九段の顔合わせとなりました。
丸山九段の一手損角換わり
後手の丸山九段が伝家の宝刀一手損角換わりを採用し、羽生九段は早繰り銀から仕掛けます。丸山九段が飛車を4筋に回して受けると、羽生九段は飛先の歩を交換します。丸山九段は飛車を2筋に回し、羽生九段が▲3四歩と伸ばすと、△3四同金と応じます。羽生九段は飛車を3筋に寄せ、▲3五銀と出て金を引かせ、▲3四歩と叩いて拠点を作ります。
激しく駒がぶつかる中盤戦へ
羽生九段が▲5五角と打つと、丸山九段は飛車取りに△2七角と打ち込みます。羽生九段は構わず▲4四銀とぶつけて銀交換し、丸山九段が飛車を取って馬を作ると、▲2二角成と飛角交換してから王手金取りに▲4二飛と打ち込みます。丸山九段は飛車で合い駒し、羽生九段が▲4一飛成と竜を作ると、△5一飛とぶつけて千日手を打診します。
千日手を打開して攻めを継続
羽生九段は▲4二竜~▲3一竜と打開し、丸山九段が△3二飛とぶつけると、竜で9筋の香を取ります。丸山九段が竜取りに△8二銀と打つと、羽生九段は3筋の歩を成り捨ててから▲4一竜とかわします。丸山九段が銀と金で竜を追うと、羽生九段は△5一銀と王手します。丸山九段が少考して△6一玉と引くと、羽生九段は▲3三竜と飛車と交換してから▲3四歩と桂頭を叩きます。
痛烈な馬金両取り
丸山九段は更に少考して△4一歩と受け、羽生九段が歩で桂を取ってから金取りに▲3一飛と打つと、△3二飛とぶつけます。羽生九段は飛交換に応じてから馬金両取りに▲3五飛と打ち、丸山九段が持ち時間を使い切ったところで△2七馬とかわすと、▲3二飛成と金を取って竜を作ります。丸山九段は△5四馬と引き付けて竜に当て、羽生九段も持ち時間を使い切って▲3一竜とかわすと、△5一玉と銀を取り返します。形勢は羽生九段に傾いてきたようです。
丸山九段の勝負手
羽生九段は▲4二金と王手し、金銀交換してから▲4六香と打ち、丸山九段が玉を6筋に早逃げすると、▲4三銀~▲5五桂と馬を追います。丸山九段は馬を見捨てて△8五桂と跳ね、自玉の退路を拡げつつ先手陣に嫌味を付ける勝負手を放ちます。羽生九段は桂で馬を取り、▲3三竜と後手玉に迫りますが、丸山九段は玉を8筋まで早逃げし、△7三金と打って堅陣を築きます。羽生九段は7筋の歩をぶつけて崩しにいきますが、形勢はほぼ互角に戻っています。
ギリギリの寄せ合い
丸山九段は△7七桂成と銀桂交換し、羽生九段が7筋の歩を取り込んで金に当てると、構わず△7六歩と金頭を叩き、金を吊り上げてから△6九銀と踏み込みます。羽生九段が▲7三歩成と金を取って攻め合うと、丸山九段は△7八銀成~△2八飛と連続王手で迫ります。羽生九段は手堅く金で合い駒し、丸山九段が△7三銀と"と金"を取って手を戻すと、▲6三成銀と後手玉を追い詰めます。丸山九段は△7七歩から先手玉に迫り、△6八飛成と金を食いちぎって王手を続けましたが届かず、投了を告げました。
総括
決勝戦の後すぐに行われた表彰式では、プレゼンターとして登場した羽生会長が、優勝者の羽生九段への表彰状を読み上げるという珍しい光景となり、会場は笑いとともに大きな拍手で包まれました。
羽生九段は準々決勝から決勝まで、終始攻め続ける姿勢を貫き、初代達人の栄誉に輝きました。ゴルフでいえばシニアツアーのような大会ですが、他の棋戦ではなかなか見られない重厚なカードが続き、ベテランならではの技の応酬もあり、特に古くからの将棋ファンにとっては非常に楽しめる棋戦だと思いました。来年以降もこの棋戦が盛り上がっていくことを期待したいと思います。