第1回ABEMA師弟トーナメントスピンオフ チーム深浦vsチーム杉本
3月12日、ABEMA師弟トーナメントのスピンオフスペシャルマッチ、チーム深浦「大地球」とチーム杉本「S-BLOOD」が放映されました。師弟トーナメントという企画で、現在の将棋界で最も有名な師弟である杉本昌隆八段と藤井聡太竜王が何故出場しないのだろうと思っていましたが、収録時期が竜王戦七番勝負の真っただ中だったのかもしれません。チーム深浦は公式戦での藤井竜王との対戦成績が、師匠の深浦康市九段が3勝1敗、弟子の佐々木大地五段(*)も2勝2敗と藤井キラーの師弟として知られており、ファン待望の白熱した好勝負になりそうです。
(*)佐々木大地六段は収録時の段位で記述させていただきます。
■一局目 深浦康市九段 〇 vs ● 藤井聡太竜王
チーム杉本は先勝を期していきなり藤井竜王が登場します。先手の深浦九段が角道を止め得意の雁木に構えると、藤井竜王も雁木の駒組みを進めます。藤井竜王が7筋から仕掛けて水を飲むと、深浦九段は斜め上に視線を送ってから1分半程考えて▲7五同歩と応じます。藤井竜王が6筋の歩を突き捨ててから△7五角と飛び出すと、深浦九段は更に1分半程考えて▲7六歩と打って角を追います。
藤井竜王が角を引くと、深浦九段は▲5七金と上がって6六の地点を受けます。深浦九段が4筋から反発し、桂交換の後▲5五歩と突くと、藤井竜王は△6四桂と打って力を溜めます。深浦九段は▲7五桂と打って角道を遮断しますが、藤井竜王は△7七歩と打って攻め掛かります。再び桂交換となり、藤井竜王が金取りに△6五歩と打つと、深浦九段は後手の桂が利いている位置に▲5六金と逃げます。
藤井竜王は取れる金を取らずに更に金取りに△6六桂と追撃しますが、深浦九段は手抜いて金取りに▲6三歩と叩き攻め合いを選択します。藤井竜王が△5三金とかわすと、深浦九段は▲5四歩~▲5五歩~▲5四桂と後手の玉頭から攻め掛かります。いくつも駒がぶつかり合い難解な中盤戦となりましたが、藤井竜王が△7五銀と桂を取ると、深浦九段は▲6二歩成と王手し角桂交換の戦果を挙げます。藤井竜王も△7八桂成と金を取り、△7六歩から銀を取りますが、深浦九段は▲5四桂と王手で反撃します。
深浦九段は飛車取りに▲7二銀と打ち、▲7四角の王手から▲8三銀成と後手の飛車を追います。藤井竜王は飛車を見捨てて△6六銀と攻め合いを選択しますが、深浦九段は角で銀を食いちぎって凌いでから飛車を取ります。深浦九段は▲7二飛と打って後手玉に迫りますが、藤井竜王は△6六金と王手角取りで角を取り自玉の逃げ道を拡げます。両者時間に追われる激戦となりましたが、深浦九段が▲6七桂と後手玉の逃げ道を塞いだのが決め手となり、藤井竜王の投了となりました。
■二局目 佐々木大地五段 〇 vs ● 杉本昌隆八段
チーム深浦は良い流れをもらった弟子が出陣し、公式戦でも対局のない顔合わせが実現しました。先手の杉本八段は弟子のアドバイスに従い、初手▲5六歩から中飛車に振り穴熊を目指します。佐々木五段が△2四角と覗いて牽制すると、杉本八段は飛車を4筋に回して歩を守ります。佐々木五段が飛先の歩を伸ばすと、杉本八段は▲9七角と端に上がって受けますが、師弟会議室の藤井竜王は「危ない気もするけど」とつぶやきます。
佐々木五段は30秒程考えてから△9四歩と端歩を伸ばし、杉本八段は▲7七桂と左桂の活用を急ぎます。佐々木五段が角取りに△9六歩と突くと、杉本八段は角で銀を食いちぎり▲6三歩と垂らします。佐々木五段は△8八角~△9九角成と香を取って馬を作りますが、杉本八段も▲7一銀~▲6二歩成と"と金"を作ります。佐々木五段が△1二香と二段ロケットを設置すると、杉本八段は▲6五銀と出て銀交換します。佐々木五段は△6六馬と引きますが、杉本八段は桂を取らせる間に▲5二歩成ともう1枚"と金"を作ります。
佐々木五段は金取りに△5五桂と打ち、杉本八段が金を逃げると飛車取りに△5七銀と追撃します。杉本八段は飛車を銀と刺し違えて▲4一銀と攻め合いますが、佐々木五段は△3一金とかわします。横からの攻めが続かないと見た杉本八段は▲2五歩と突き、後手の桂を呼び込んで▲2六金と出る勝負手を放ちます。佐々木五段は△4六角と出て先手玉を睨み、杉本八段が▲2五桂と桂を取ると、慎重に30秒程考えて△6八飛と打ち込み寄せ切りました。
■三局目 佐々木大地五段 〇 vs ● 杉本昌隆八段
チーム深浦は相手を藤井竜王と読んで佐々木五段が連投しますが、チーム杉本も相手を深浦九段と読んで師匠が連投し、二局目と同じ顔合わせとなりました。後手の杉本八段が向かい飛車に振り、佐々木五段は天守閣美濃に構えます。これを見た杉本八段は金銀3枚の穴熊に囲い、佐々木五段は銀冠に組み替えます。
杉本八段が3筋に飛車を回すと佐々木五段も飛車を3筋に寄せ、杉本八段が△6四角と覗くと佐々木五段は2分以上考え▲4五歩と攻め合います。佐々木五段が▲1一角成と馬を作ると、杉本八段は△4六歩と伸ばします。佐々木五段は飛車取りに▲2一馬と寄り千日手模様となりましたが、杉本八段が△5二銀と引いて打開します。
佐々木五段が▲5四馬と引き付けると、杉本八段は△5五歩と打って銀を吊り上げ△4七歩成と"と金"を作ります。佐々木五段は▲2四飛と捌いてから▲6四銀と角を取り、杉本八段は△6五桂から△5七桂成と成桂を作ります。佐々木五段が▲2一飛成と竜を作る間に、杉本八段は"と金"を寄せて攻め合います。佐々木五段が▲2六角と打って攻め駒を足すと、杉本八段は△5五銀と金取りに打ちます。佐々木五段が9筋の歩をぶつけますが、杉本八段は金を取ってから9筋の歩を取ります。
佐々木五段が9筋に歩の連打で香を吊り上げ▲8六桂と香取りに打つと、杉本八段は△9三金と持ち駒を投入して粘ります。佐々木五段は▲5一角成から攻め掛かり飛車を取りますが、杉本八段も△6八"と"から金を剥がして先手玉に迫ります。佐々木五段は成桂取りに▲2四馬と引いて催促し、▲9五香から寄せに入ります。杉本八段も懸命に先手玉に迫って詰めろを掛けましたが、佐々木五段は▲8二桂成から長手数の即詰みに討ち取りました。
【チーム深浦 3勝 vs チーム杉本 0勝】
チーム深浦は師匠がまたも藤井竜王を破って勢いに乗りました。内容的にも藤井竜王に先行されながら混戦に持ち込み逆転という、持ち味を活かした会心の将棋だったと思います。弟子の佐々木(大)五段も師匠の作った流れに乗り、連勝で一気に勝負を付けました。仲の良い師弟が、より一層絆を深める素晴らしい戦いぶりだったと思います。
チーム杉本は、初戦に弟子の藤井竜王が痛恨の敗戦を喫して波に乗れませんでした。持ち時間の長い竜王戦七番勝負の後で、早指しでの勝負勘が戻っていなかったのかもしれません。師匠の杉本八段はフィッシャールールへの適応が懸念されましたが、相手より残り時間が多い時間帯が長く、充分練習を積んだように見受けられました。勝ち星には恵まれませんでしたが、多忙の弟子と一緒の時間を過ごすことを心から楽しんでいる様子が微笑ましく感じられました。
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