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「観る将」が観た第48期女流名人戦第四局
2月24日に関西将棋会館で、岡田美術館杯女流名人戦五番勝負第四局が行われました。第三局で1勝目を挙げた里見香奈女流名人が本局にも勝ってタイスコアに戻すのか、奪取に王手を掛けている伊藤沙恵女流三段が悲願の初タイトル獲得を果たすのか、注目の一局となりました。里見女流名人が現在4連勝中で、棋王戦予選では澤田七段を破るなど調子を上げているのに対し、伊藤女流三段は2月に入って3連敗と少し調子を落としているのが気になります。
先手の里見女流名人が初手▲5六歩から中飛車に振り、伊藤女流三段は向かい飛車に振ります。第二局と同じ進行でしたが、伊藤女流三段が△2五歩と伸ばすと、里見女流名人は飛車を2筋に戻して対抗形の将棋となります。お互いに陣形を整備し、里見女流名人は天守閣美濃、伊藤女流三段は高美濃に囲います。
伊藤女流三段が21分の熟考で△3五歩と突き捨ててから△1五歩と突くと、里見女流名人は端を手抜いて▲4五歩と反発します。伊藤女流三段が飛車を浮いて受けると、里見女流名人は飛車を4筋に回します。伊藤女流三段は飛先の歩を伸ばして2筋突破を図りますが、里見女流名人も飛車を浮いて受けます。伊藤女流三段が△2七歩成と"と金"を作ると、里見女流名人は▲2五歩と打って後手の飛車を追い返してから4筋の歩を取り込みます。次の50手目を伊藤女流三段が考慮中、昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は里見女流名人が2時間38分、伊藤女流三段が1時間43分と1時間近い差が付いています。
伊藤女流三段は昼休を挟む24分の熟考で△4四同角と角で歩を払います。里見女流名人も20分考えて飛車を角と刺し違え、更に17分考えて▲4一角と飛金両取りに打ち込みます。伊藤女流三段が飛車を1筋にかわすと、里見女流名人は2筋の歩を突いて飛車を二段目に引かせてから▲5四歩と伸ばします。この手は歩成を狙いつつ、角道を通して銀取りになっています。伊藤女流三段は残り時間が早くも1時間を切り、銀に紐を付けて△4九飛と打ち込み攻め合いを選択します。
里見女流名人は▲2三歩成と"と金"を作って飛車を追い、取られそうな桂を▲2五桂と跳ね攻め駒を足します。しかし伊藤女流三段が△5四歩と歩を払うと後手陣の嫌味が消え、形勢も少し傾いてきたようです。里見女流名人が馬を作って桂香を拾う間に、伊藤女流三段は"と金"で金を1枚剥がします。少し苦しくなってきた里見女流名人は、9筋からの端攻めで戦火を拡げます。自然に対処した伊藤女流三段が△8四歩と桂取りに突くと、里見女流名人は角で取って後手陣の飛車と刺し違えます。里見女流名人の残り時間も1時間を切りました。
里見女流名人は歩の成り捨てで後手玉を下段に落としてから▲4三飛と銀の両取りに打ちますが、伊藤女流三段の両取りを受けた△5三角が、4四の地点で駒の交換になれば攻撃の起点にもなる絶好の角打ちとなりました。里見女流名人が▲4五歩~▲4四馬と攻撃をつなぐ間に、伊藤女流三段は△8五歩~△8六歩と桂を取りながら先手玉に迫ります。伊藤女流三段が優勢の局面を築きましたが、残り時間は5分となり時間との勝負になってきました。
伊藤女流三段は角を馬と交換して手持ちにしてから、△7三桂と跳ねて玉頭戦を挑みます。里見女流名人は▲6六角~▲7四銀と後手玉に迫りますが、伊藤女流三段は構わず△8五金と王手で攻め込みます。伊藤女流三段は落ち着いて1分考えてから△8六桂と詰めろを掛けます。里見女流名人は残り3分まで考えて銀を避けて詰めろを逃れますが、伊藤女流三段は△7八桂成と華麗に成り捨てます。里見女流名人はしばらく盤を眺めていましたが、背筋を伸ばすと投了を告げました。
本局は第二局と同じ出だしでいったん相振り飛車の将棋になりましたが、里見女流名人が飛車を居飛車の位置に戻すという工夫を見せました。伊藤女流三段の仕掛けに対して、里見女流名人が強く反発し飛車角交換してから先に角を打ち込んだ辺りでは好調に見えました。伊藤女流三段は時間を使って辛抱の局面が続きましたが、里見女流名人に何か誤算があったのか攻めが途切れると力強く反撃に転じました。里見女流名人は端攻めからの玉頭戦に命運を託しましたが、伊藤女流三段は正確に受け切ると逆に玉頭から攻め掛かり鮮やかに寄せ切りました。お互いに力を出し切った熱戦だったと思います。
伊藤女流三段は3勝1敗で奪取に成功し、9回目の挑戦で悲願の初タイトル獲得となりました。対局後のインタビューで「ずっと応援してくださる方がいらっしゃったので、結果を残せて良かった」「タイトルを持たれている方は、素晴らしい方、強い方ばかりです。自分も見合った実力をつけなければいけないと思う」と、時々目頭を押さえて話す様子には、長年の苦労の末勝ち取ったものの大きさを感じさせました。まだ28歳と若く、これをきっかけにタイトル数を積み重ねていって欲しいと期待します。
里見女流四冠は17歳の時から続けてきた連覇が途絶えることになりましたが、これまでに積み上げた12連覇の偉業は色褪せることのない金字塔だと思います。対局後には「長きにわたってタイトルを保持していく中で、人間的に成長させていただくことがかなり多かったので、女流名人戦という棋戦に感謝したい」と話しています。西山女流二冠との二強時代から、加藤(桃)清麗と伊藤新女流名人を加えた四強時代に移っていくのか、里見女流四冠が再び一強としての地位を固めていくのかわかりませんが、これからの女流タイトル争いが盛り上がることを楽しみにしたいと思います。