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「観る将」が観た第3期清麗戦第二局

10月13日に第3期大成建設杯清麗戦五番勝負第二局が東京のホテルニューオータニで行われました。先勝された里見香奈清麗が巻き返すのか、挑戦者の加藤桃子女流三段が連勝して清麗奪取に王手を掛けるのかという一局になりました。前日のインタビューで、里見清麗は「気持ちは切り替えられている。明日は盤上に集中して頑張りたい」、加藤女流三段は「第一局を勝ちきれたのは大きいが3勝しないといけない。一局一局気を引き締めていきたい」と話しています。

先に里見清麗がベージュ色に小さな花をあしらった落ち着いた着物で入室し、加藤女流三段は色とりどりの大きな花がひしめく華やかな着物で入室します。先手の加藤女流三段が飛先の歩を突くと、里見清麗は角道を開けてから5筋の歩を突いて中飛車に振ります。加藤女流三段が▲4六銀と足早に繰り出すと、里見清麗は5筋の歩を交換してから美濃囲いに構えます。加藤女流三段も高美濃に囲うと、6分の少考で▲3五歩と仕掛けます。

里見清麗は33分の熟考で△4五歩と突き返して桂交換となり、加藤女流三段は更に▲6五銀~▲5四銀と繰り出し、▲5六桂と援軍に打ちます。この桂が右に跳ねれば金銀両取り、左に跳ねれば銀の両取りになるので、里見清麗が17分ほど考えてそのまま昼休となりました。AIの評価値は加藤女流三段の67%と傾いています。残り時間は里見清麗が2時間27分、加藤女流三段が2時間34分と拮抗しています。

昼休明け、里見清麗が銀を下げて桂の両取りを未然に避けると、加藤女流三段は飛車を4筋に回して攻撃に厚みを加えます。加藤女流三段が角銀交換の戦果を挙げると、里見清麗は9筋から端攻めに出ます。加藤女流三段は構わず桂を跳ね、後手の守りの銀と交換してから▲9八歩と受けます。加藤女流三段は更に▲1五角と打ち、2枚の角で後手の飛車と銀を狙います。押され気味の里見清麗は、△6六歩と叩いてから△8四桂と先手の玉頭から攻め掛かり、銀を取られて飛車取りに▲4二角成と馬を作られた瞬間△5五飛と走って金銀両取りの十字飛車を決めます。待望の反撃でAIの評価値は里見清麗の62%と逆点模様です。

加藤女流三段は飛車取りに▲5二馬と寄り、里見清麗が△6三銀と受けると馬で食いちぎって▲8六銀と飛車取りに打ちます。この手で珍しい駒柱が立ちました。里見清麗も飛車でこの銀を食いちぎり、△4八角と飛金両取りに打ち込みます。派手な応酬が続き、AIの評価値は再び互角に戻り、どちらが勝つのかわからない熱戦になってきました。

加藤女流三段は両取りに構わず、▲5二飛と王手で敵陣に打ち込みます。里見清麗は△6二歩と受けましたが、加藤女流三段が▲6四歩と金取りに打ったのが厳しい追撃です。里見清麗は△5六歩と打って詰めろを掛けますが、加藤女流三段は冷静に金を引いて受けます。里見清麗が△5五角と2枚目の角を攻防に放つと、加藤女流三段は飛車角交換に応じて▲6三歩成と後手の守りの金を剥がします。

里見清麗は△6六角成と先手の金の利きに馬を作ります。この馬を取ると金で取り返されて先手玉は寄り筋なので、加藤女流三段は▲7七金打と受けます。ハンカチを口元に当てて残り7分まで考えた里見清麗は攻め切れないとみて馬を引きますが、後手陣に金銀が1枚もないのに比べ、先手陣は金銀4枚に守られ安全度が高まりました。AIの評価値は両者の間を揺れ動いていましたが、とうとう加藤女流三段の82%と大きく傾いてきました。

まだ時間に余裕のある加藤女流三段は少考を重ね、銀を補充してから▲6一角と打ち込み馬を作ります。里見清麗は"と金"を作ったところで1分将棋に突入し、先手の守りの金を1枚剥がします。加藤女流三段が構わず寄せて詰めろを掛けると、里見清麗は連続王手で先手玉に迫りますが届かず、無念の投了となりました。

本局は序盤に加藤女流三段が積極的に銀を前進させて主導権を握り、里見清麗が決め手を与えず凌ぐ展開となりました。里見清麗の辛抱が奏功し、中盤以降は一進一退の白熱した攻防が繰り広げられました。序盤から時間を使わされた里見清麗が、時間に追われて先手陣を攻め切れなかったのに対し、加藤女流三段は落ち着いて自陣の危険を回避し寄せ切りました。加藤女流三段の攻め、里見清麗の受けという両者が持ち味を出し切っての好局だったと思います。

この結果、加藤女流三段が2連勝で清麗奪取に王手を掛けました。第三局に向け対局直後のインタビューで、加藤女流三段は「しっかりと準備して挑みたい」、里見清麗は「時間配分や戦型など良い状態で臨めたら」と話しました。次局は先手番の里見清麗が巻き返すのか、感想戦後に「結構嬉しいです」と喜びを表現した加藤女流三段が波に乗って一気に決めるのか、いずれにせよ熱戦となることを期待したいと思います。

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