
「観る将」が観た第48期女流名人戦第三局
2月6日に千葉県野田市の関根名人記念館で、岡田美術館杯女流名人戦五番勝負第三局が行われました。連敗スタートで後がなくなった里見女流名人ですが、第43期女流名人戦で2連敗後の3連勝で防衛した経験もあり、本局に勝って流れを取り戻したいところです。連勝で王手を掛けた伊藤沙恵女流三段としては、悲願の初タイトル獲得に向け一気に決着を付けたいところです。
先手の伊藤女流三段が第一局と同様に居飛車を採用すると、里見女流名人は角道を止めて向かい飛車に振ります。里見女流名人が美濃囲いに構えると、伊藤女流三段は穴熊に囲います。これを見た里見女流名人は飛先の歩を交換して飛車をぶつけますが、打ち込まれる隙の多い伊藤女流三段は▲2五歩と打って飛交換を拒否します。里見女流名人が角道を開けてぶつけると、伊藤女流三段は▲2四歩と伸ばし、角交換の後▲2三角と打ち込みます。
早くも激しい戦いとなり、角で金を食いちぎった伊藤女流三段が敵陣に飛車を打ち込み竜を作ると、里見女流名人は△4四角と打って敵陣を睨みます。里見女流名人が△2五飛~△2八歩から桂香を拾う間に、伊藤女流三段は▲4二金と角銀両取りに打ち、次の53手目を考慮中に昼休となりました。形勢は早くも里見女流名人に傾いているようです。各3時間の持ち時間の内、残り時間も里見女流名人が2時間3分、伊藤女流三段が1時間18分と差が付いています。
伊藤女流三段は昼休を挟む35分の熟考で、すぐに角を取らず竜を銀取りに当てて力を溜めます。里見女流名人は構わず△8五桂~△6四香と攻め立てます。伊藤女流三段が下段に香を打って辛抱すると、里見女流名人は31分の熟考でじっと4筋の歩を突きます。伊藤女流三段は金で銀を取りますが、里見女流名人は3筋の歩も突いて角の可動域を拡げてから△2八飛成と竜を作ります。伊藤女流三段が▲4八歩と竜の横利きを遮断すると、里見女流名人は銀取りに△2五角と飛び出します。
里見女流名人が守りに打った角まで攻撃に活用し、苦しくなった伊藤女流三段は12分考え▲2一竜と勝負手を放ちます。後手の2五の角が動けば2八の竜を素抜ける形になっていますが、里見女流名人が迷わず△4七角成と銀を取ると▲4七同歩と取らざるを得ません。里見女流名人は竜を交換してから△7八銀と打ち寄せに入ります。伊藤女流三段は持ち駒の飛車角を自陣に投入して執念の粘りを見せましたが、里見女流名人は緩まず寄せ切りました。
本局は里見女流名人が序盤から機敏に仕掛け、すべての駒が躍動する快勝となりました。カド番の状況が続きますが「目の前の対局に一局一局集中してこれからも頑張ります」と話した通り、次局にも勝ってフルセットの熱戦を期待したいと思います。伊藤女流三段は何か誤算があったのか力を発揮できない将棋となりました。先手番での手痛い敗局となりましたが、まだ2勝1敗と優位な状況にあり「次局は切り替えて精一杯頑張りたい」と話した通り力を出し切って欲しいと思います。