「観る将」が観た第33期竜王戦 3組ランキング戦決勝
6月20日に行われた竜王戦3組ランキング戦決勝の感想です。藤井七段と師匠の杉本八段の対局が実現しました。杉本八段が和服で登場し、この一局の重みを感じさせます。
将棋は後手の杉本八段が四間飛車から△6二金と構え、一手一手お互いに熟考を重ねる長い中盤戦となりましたが、▲2五桂から踏み込んだ藤井七段が徐々にリードを拡げ勝利しました。竜王戦のランキング戦4期連続優勝はもちろん史上初であり、また一つ金字塔を打ち立てたことになります。
将棋界では、弟子が成長してくるころには師匠は全盛期を過ぎていることも多く、大一番で師弟が対局することは珍しいように思います。弟子の強さを誰よりも知る杉本八段が、この大一番で相対することができる喜びは、本当に大きかったと思います。人生で最高の将棋を指すため入念に準備し、知恵を振り絞って戦ったのでしょう。師弟で会話するかのような二人の対局姿は、観る者の心を打たずにはいられませんでした。
杉本八段が、藤井聡太という傑出した才能をここまで順調に育ててきた功績は計り知れません。また弟子の成長に伴い自らも進化してきたことは、自分にできることをやり抜くという責任感の表れではないかと思っています。順位戦でC級1組に並ばれた時は一足先に昇級を果たし、七段で並ばれていた段位も一足先に昇段を果たしています。今期は竜王戦でも3組で並ばれましたが、2組へ師弟同時昇級を果たし意地を見せました。
「将棋では、ずいぶん前から教えることは何もない」と語る杉本八段ですが、将棋に対する姿勢、一手一手最善を尽くすという信念など、藤井七段は肌で感じながら吸収していると思います。私たちが今、藤井聡太という夢を追いかけられるのは、この師匠によるところも大きいのだろうなと感じています。この素晴らしい師弟に、心から感謝したいと思います。
※藤井さんは、7月16日に棋聖位を獲得しましたが、本稿では当時の段位で記述しています。