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「観る将」が観た第42回JT杯決勝 豊島JT杯vs藤井竜王

11月21日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)決勝、豊島将之JT杯覇者と藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖)の公開対局が、千葉市の幕張メッセ国際展示場で行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に各5分の考慮時間あり)の早指し棋戦です。

豊島JT杯は2回戦で広瀬八段、準決勝で渡辺名人を破って勝ち上がりました。前回からの連覇、通算3回目の優勝を目指します。藤井竜王は2回戦で千田七段、準決勝で永瀬王座を破って勝ち上がりました。初の決勝進出で、初優勝を目指します。ご存じの通り、両者は今年3つのタイトル戦(王位戦・叡王戦・竜王戦)で相まみえ、いずれも藤井竜王に軍配が上がっています。前日の記者会見で、藤井竜王は「今回初めて決勝戦を戦えることを嬉しく思っています」、豊島JT杯は「思い切りよくぶつかっていければ」と本局への意気込みを話しています。

先立って行われていた子供大会が長引き、予定より1時間以上遅れて開始となりました。豊島JT杯が茶色の着物に焦茶色の羽織で、藤井竜王はベージュの着物に濃紺の羽織で入場します。2人とも晩秋らしい似たような配色の装いです。来場者による振り駒で先手となった豊島JT杯は、対局開始になるとすぐに飛先の歩を突きます。藤井竜王は早指し棋戦でも初手の前にお茶を口にするルーティンを変えず、飛先の歩を突きます。豊島JT杯が角換わりに誘導し、藤井竜王も受けて立ちました。

豊島JT杯は▲3七桂と跳ね、いきなり▲3五歩と仕掛けます。藤井竜王が手抜いて△7三銀と上がると豊島JT杯は▲4五桂と銀取りに跳ねます。藤井竜王が銀を引くと、豊島JT杯は▲3四歩と取り込みます。藤井竜王が7筋の歩を突き捨ててから△6四銀と出ると、豊島JT杯は飛先の歩を交換して下段に引きます。藤井竜王が△7五銀~△8六歩と仕掛けると、豊島JT杯は銀交換に応じます。ここまで両者とも研究範囲なのか軽快に指し進めてきましたが、藤井竜王が7筋の横歩を取ると初めて豊島JT杯の手が止まり、解説の阿久津八段が封じ手を宣言しました。

封じ手は、飛車取りかつ後手陣を睨む▲6五角でした。藤井竜王が飛車を下段まで引くと、豊島JT杯は▲7二歩と飛頭を叩きます。ここで藤井竜王も初めて手を止めて考え、△3一飛と先手の角が睨む金の下に逃げます。豊島JT杯が持ち時間を使い切り、秒読みの中▲2五桂と後手の玉頭から攻め掛かります。藤井竜王は持ち駒の銀を打って守り、豊島JT杯は銀桂交換の戦果を挙げます。豊島JT杯が4筋の歩を伸ばすと、藤井竜王は△8八歩と打って先手陣を崩しにいきます。豊島JT杯が手抜いて▲4四歩と取り込むと、藤井竜王も持ち時間を使い切り、更に考慮時間を3回使って△8九歩成と桂を取り攻め合います。AIの評価値は豊島JT杯の71%と少し傾いてきました。

豊島JT杯は▲4三銀と踏み込み、後手の玉頭で金銀交換になります。豊島JT杯は▲4四歩と追撃し、後手陣を乱してから▲2三飛成と竜を作ります。藤井竜王は受けずに△7七歩と金頭を叩きますが、豊島JT杯も手抜いて▲3二金と攻め合いを選択します。藤井竜王が△5一玉とかわすと、豊島JT杯が▲3三竜と銀を取って詰めろを掛けます。どちらの読みが勝っているのかという激しい終盤戦になりましたが、AIの評価値は豊島JT杯の88%と大きく傾いてきました。

藤井竜王は△7八歩成と金を取って王手します。持ち駒が多く逃げ方を間違えると詰まされそうな局面ですが、考慮時間を残していた豊島JT杯はしっかり考え▲7八同玉と取ります。藤井竜王は考慮時間を使い切り、△3二飛と金を補充してから連続王手で先手玉に迫ります。豊島JT杯が正確な応手で7連続王手を凌ぐと、藤井竜王は深々と頭を下げて投了を告げました。

本局は豊島JT杯が素早く仕掛け、お互いに一直線に攻め合う激しい将棋となりました。藤井竜王の攻めに怯まず豊島JT杯が4筋の歩を取り込んだのが好手だったようで、劣勢を感じた藤井竜王が次々に勝負手を放ちましたが、正確に応じた豊島JT杯の快勝となりました。今年数々の名勝負を繰り広げてきた両者でしたが、JT杯決勝という大舞台で豊島JT杯が一矢報いる形となりました。

この結果、豊島JT杯は2連覇を達成し通算3回目の優勝となりました。叡王と竜王を失冠し無冠に転落していますが、JT杯覇者の称号は守ったことになります。藤井竜王は初めてJT杯決勝に臨みましたが、惜しくも優勝はなりませんでした。次回以降、早い時期での初優勝を期待したいと思います。

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