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「観る将」が観た第45回JT杯2回戦 藤井JT杯vs佐々木(大)七段

9月21日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)2回戦、藤井聡太JT杯と佐々木大地七段の公開対局が、札幌市の札幌コンベンションセンターで行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に1分の考慮時間5回)の早指し棋戦です。

前回2連覇を成し遂げた藤井JT杯は、今回は本局が初戦となります。今回が初めての出場となる佐々木七段は、1回戦で羽生九段を破って勝ち上がっています。両者の対戦成績は藤井JT杯の9勝4敗で、昨年の王位戦七番勝負以来の対局となります。


照明を落とした会場に、向かって右から藤色の着物と鶯茶の袴に白い羽織をまとった藤井JT杯が、左から亜麻色の着物と灰色の袴に濃紺の羽織をまとった佐々木七段が、ライトアップされて壇上に上がります。司会者がメッセージを求めると、藤井JT杯は「多くの方に熱戦を楽しんでいただけるように全力を尽くしたいと思っています」、佐々木七段は「精一杯自分の力を出し切って頑張りたいと思います」と答えています。

戦型は角換わり相腰掛け銀

観客の中から抽選で選ばれた方の振り駒で先手となった藤井JT杯が角換わりに誘導し、淡々と相腰掛け銀の駒組みが進みます。佐々木七段が飛車を4筋の自玉の下に回すと、藤井JT杯は▲4五桂と跳ねて仕掛けます。佐々木七段が銀を2筋に引いてかわすと、藤井JT杯は7筋の歩を突き捨ててから桂を5筋に成り捨て、取った歩で7筋の桂を取りにいきます。佐々木七段は4筋の歩を伸ばし、藤井JT杯が2筋の歩を交換すると、△2三銀と上がって飛車を追い返して銀冠を組みます。

控えの桂打ちの応酬

藤井JT杯は7筋の桂を取って▲4七桂と打ち、佐々木七段が飛車を8筋に戻すと、3筋の歩をぶつけます。佐々木七段は手抜いて△7四桂と打ち返し、藤井JT杯が▲2二歩と桂頭を叩くと、初めて手を止めて数分考え、3筋に桂を跳ねてかわします。解説の松尾八段はここで封じ手を宣言し、藤井JT杯はすぐに次の手を封じます。

藤井JT杯が攻勢

封じ手は候補の一つに上がっていた、▲3四歩と取り込む手でした。佐々木七段は同銀と応じ、藤井JT杯が歩を取って飛車を走ると、銀を引き戻して追い返し、△2六歩と飛車の利きを遮断します。この歩を取ると角を打たれる隙ができるので、藤井JT杯が2筋の歩を成り捨ててから▲5五銀とぶつけると、佐々木七段は持ち時間を使い切り、銀交換に応じて桂取りに△5四歩と打ちます。

佐々木七段が飛車を見捨てて攻防の角打ち

藤井JT杯は▲2四歩と銀頭を叩いて吊り上げてから金取りに▲4三銀と打ち、佐々木七段が考慮時間を2回使って同金と応じると、飛金両取りに▲3二角と打ち込みます。AIの評価値は藤井JT杯の57%とわずかに傾いてきました。佐々木七段が飛車を見捨てて△5五歩と桂を取り、攻防に△3四角と据えると、藤井JT杯も持ち時間を使い切り、考慮時間を1回使って▲4五歩と角の利きを止めます。

佐々木七段の反撃

佐々木七段は8筋の歩を突き捨て、考慮時間を2回使って△8八歩と桂頭を叩いて玉で取らせ、△8七歩と玉頭を叩いて金で取らせ、△8五歩と合わせて攻め掛かります。藤井JT杯が考慮時間を使って金取りに▲7一飛と打つと、佐々木七段は手堅く△6二銀と打って金に紐を付けつつ飛車に当てます。藤井JT杯は▲9一飛成と香を取って竜を作りますが、AIの評価値はほぼ互角に戻ります。

後手の角を巡る攻防

佐々木七段が△4五角と歩を取って先手陣に角の利きを通すと、藤井JT杯は考慮時間を使って角取りに▲4七香と打ちます。佐々木七段は最後の考慮時間を使って△5四角と引いてかわし、藤井JT杯が6筋の歩をぶつけて角で取らせ、▲7六歩と合わせると、8筋の歩を取り込んで銀で取らせてから△8四桂と打ちます。

先手玉に迫る佐々木七段の馬

藤井JT杯は考慮時間を使って玉を7筋に寄り、佐々木七段が△7六桂と跳ねると、取られそうな銀を▲7五銀とかわします。佐々木七段は△6八桂成と飛び込み、藤井JT杯がやむなく同玉と応じると、△8七角成と金を取って馬を作ります。藤井JT杯は▲6七桂と打って7筋の銀に紐を付け、佐々木七段が△7八銀と打つと、▲4一竜と回して反撃に転じます。

攻守を入れ替えての熱戦

佐々木七段は△4二金打と手堅く持ち駒を投じて受け、藤井JT杯が▲6一竜とかわすと、△6七銀成と桂を食いちぎり、銀取りに△6三桂と打ちます。藤井JT杯は▲7四銀ともう1枚の桂を食いちぎってから▲6八玉と早逃げし、佐々木七段が△7七歩と垂らすと、構わず金銀両取りに▲5一銀と打ちます。ほぼ互角の範囲で揺れていたAIの評価値は、再び藤井JT杯の73%と傾いています。

急転直下の終局

佐々木七段が△7八歩成と王手し、△7六馬と詰めろを掛けると、藤井JT杯は▲4二銀不成と金を取って王手します。この銀を玉で取ると後手玉には詰みがあり、金で取ると馬を素抜かれてしまい、玉を上部にかわせば駒をどんどん取られて勝ち目がなく、佐々木七段はここで潔く投了を告げました。

まとめ

本局は両者研究十分の角換わり腰掛け銀の将棋となり、藤井JT杯が飛金両取りから飛車を取ってわずかに優勢となりました。佐々木七段は攻防の角を放って反撃に転じ、手堅い守りで形勢が揺れ動く熱戦に持ち込みました。金銀4枚に守られた後手陣は手厚く見えましたが、藤井JT杯は銀打ちから切り崩して瞬く間に寄せ切りました。
勝った藤井JT杯は、次の準決勝で広瀬章人九段との対局が決まりました。本局と同様に熱戦となることを期待したいと思います。

将棋日本シリーズJTプロ公式戦の棋譜等は、公式ホームページをご確認ください。


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