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「観る将」が観た第72回NHK杯トーナメント本戦準決勝 藤井竜王vs八代七段

3月12日、NHK杯本戦の準決勝第二試合、藤井聡太竜王と八代弥七段の対局が放映されました。

藤井竜王は本戦からの登場で、伊藤(匠)五段と佐藤(天)九段を破り、準々決勝で中川八段を降して勝ち上がりました。八代七段も本戦からの登場で、豊川七段、渡辺(明)名人、深浦九段、菅井八段を撃破しています。

八代七段は2012年プロ入りの29歳で、朝日杯優勝経験のある実力者です。竜王戦は1組ですが、順位戦でC級2組を脱することができていないことは、将棋界の七不思議とも言われています。2月に結婚したことを発表しており、この日は勝って吉報を届けたいところだと思います。

戦型は角換わり相腰掛け銀

振り駒で先手となった藤井竜王が角換わりに誘導し、相腰掛け銀の将棋となります。藤井竜王は▲4五桂と仕掛け、八代七段が銀を4筋に上がってかわすと、飛先の歩を交換します。八代七段が6筋の歩を突き捨て7筋の歩をぶつけると、藤井竜王は2筋の桂頭を歩で叩き、金で取らせてから6筋の歩を伸ばします。

継ぎ歩攻め

八代七段が8筋を継ぎ歩で攻めると、藤井竜王は飛車を6筋に回します。八代七段は8筋の歩を取り込みますが、藤井竜王は飛頭を歩で叩き、後手が飛車を7筋に寄せるのを見て7筋の歩を取ります。八代七段が金を3筋に戻して陣形を整えると、藤井竜王は▲7四角と打って攻め掛かります。

角金交換から角を捕獲

八代七段は飛頭を歩で叩き、藤井竜王が同飛と応じると、飛金両取りに△6九角と打ち込みます。藤井竜王は飛車を寄ってかわしますが、八代七段は角で金を食いちぎり、取った金を△8四金と打って先手の角を捕獲します。

藤井竜王の研究手順

ここまで前例もある進行だったようですが、藤井竜王はここで▲6三歩成と"と金"を作って金に当て前例を離れます。持ち時間を使い切った八代七段が銀で"と金"を取ると、藤井竜王は8筋の歩を成って飛車に当てます。取ると飛金両取りが厳しいので、八代七段は飛車を浮いてかわしますが、藤井竜王は角で銀を食いちぎり、飛車を6筋に戻して金に当てます。

藤井竜王の攻勢

八代七段が歩で金を守ると、藤井竜王は飛車取りに▲6一銀と打ち込みます。八代七段は考慮時間を使って飛車を9筋にかわしますが、藤井竜王は再び2筋の桂頭に手裏剣を飛ばします。AIの評価値は藤井竜王の60%とわずかに傾いています。

八代七段の反撃

苦しくなってきた八代七段は更に考慮時間を使い、2筋に構わず△6五桂と跳ねて攻め合います。ようやく持ち時間を使い切った藤井竜王は銀で桂を食いちぎり、2筋の桂を取って"と金"を作ります。八代七段が4筋の桂を銀で食いちぎり、金取りに△6六桂と打つと、藤井竜王は考慮時間を一気に4回使って▲5二銀打と詰めろを掛けます。

激しい攻め合い

八代七段は△7八桂成と王手で金を取り、△5二飛と銀を食いちぎって詰めろを逃れます。藤井竜王は▲8二飛と王手で打ち込み、銀で合い駒させてから金取りに▲5五桂と打って畳み掛けます。八代七段の駒台には角金銀銀と豊富な持ち駒が並んでいますが、AIの評価値は藤井竜王の87%と大きく傾いています。

藤井竜王の長考

八代七段が△8七角と王手で打つと、藤井竜王は玉を8筋に寄ってかわします。八代七段は最後の考慮時間を使って△7五金と前進して6五の歩に紐を付けます。不用意に駒を渡すと詰まされてしまうので、腰を落として4回の考慮時間をまとめて使った藤井竜王でしたが、後手玉に詰みはなかったようで▲7九桂と自陣を補強して手を渡します。

鮮やかな即詰み

八代七段が△7六歩と怪しく銀頭に打つと、藤井竜王は▲8六銀と後手の角を支える歩を取ります。八代七段が金で銀を取ると、6五の歩の紐が外れて後手玉に即詰みが生じたようで、藤井竜王は取れる金に見向きもせず▲6三桂成~▲6五飛と王手を続けます。八代七段は数手指し続けましたが、藤井竜王が銀を取って竜を作ると、背筋を伸ばして投了を告げました。

まとめ

本局は藤井竜王が最も得意とする角換わり腰掛け銀を、八代七段が堂々と受けて立ち前例のある進行が続きました。研究十分と思われる藤井竜王が先に手を変えると、八代七段は小刻みに時間を使って自然な手で応じましたが、徐々に苦しい展開となっていきました。時間に余裕があった藤井竜王は終盤に長考し、相手に攻めを催促して生じた隙を突き、一気に勝負を決めました。
藤井竜王は自身初のNHK杯決勝に駒を進め、初優勝と同時に4つの一般棋戦完全制覇にあと1勝となりました。決勝の相手は、先日順位戦でA級昇級を決め、あの30連勝を阻止した佐々木(勇)八段になりますが、前人未到の大記録達成を期待したいと思います。
八代七段は惜しくもベスト4で姿を消すことになりましたが、次々と強豪を破って勝ち上がってきた自信を糧に、今後の飛躍を楽しみにしたいと思います。

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