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「観る将」が観た第64期王位戦第二局

7月13-14日、伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦七番勝負第二局が兵庫県神戸市の有馬温泉にある「中の坊瑞苑」で行われました。先勝した藤井聡太王位が勝ってリードを拡げるのか、佐々木大地七段が勝ってタイスコアに戻すのか、注目の一局となりました。

前夜祭では、藤井王位は「第一局の反省点を踏まえて、時間の使い方も含めてより良い将棋にしていけるように、精一杯頑張っていきたいと思っています」、佐々木七段は「第一局ではかなり形勢判断の甘さが出てしまったので、そこを改善してより良い対局にできるよう精一杯頑張りたいと思います」と挨拶しています。


得意の相掛かり

落ち着いた雰囲気の対局室に佐々木七段が淡い藤色の着物に亜麻色の袴と淡い青緑色の羽織で入室し、続いて藤井王位が白い着物に濃紺の袴と青い羽織で入室します。先手の佐々木七段が得意の相掛かりに誘導し、お互いに飛車先の歩を交換します。佐々木七段が銀を5筋に腰掛けると、藤井王位は角を交換して2筋に銀を上がり、先手の銀の進出に備えます。

序盤の大長考

比較的穏やかな駒組みが続きましたが、藤井王位が保留していた9筋の端歩を受けると、佐々木七段は次の35手目に100分を超える長考に沈み、そのまま昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が7時間5分、佐々木七段が5時間44分と1時間以上の差になっています。

佐々木七段の踏み込み

佐々木七段が昼休を挟む117分の大長考で▲4五銀と出て2-3筋への攻撃態勢を作ると、藤井王位は66分の長考で△3三桂と応じます。佐々木七段が銀を前進して3筋の歩を取ると、藤井王位は更に32分考えて△4七角と打って先手が銀の援軍に角を打つ手を防ぎます。AIの評価値は藤井王位の56%とわずかに傾いています。

長考の封じ手

佐々木七段が再び68分の長考で6筋の歩を突いて、角の打ち場所を作りつつ後手の角成を防ぐと、藤井王位は7筋の歩を突いて、角の引き場所を作りつつ飛車の横利きを銀に当てます。佐々木七段が▲6六角と打って銀に紐を付けると、藤井王位は7筋の歩を取り込み攻撃の拠点を作ります。佐々木七段が金を上がって角に当てると、藤井王位は定刻後も数分考え続け、59分の長考で次の44手目を封じました。AIの評価値は藤井王位の58%とわずかに傾き、残り時間は藤井王位が4時間5分、佐々木七段が4時間10分と拮抗しています。

前例を離れる

封じ手の局面は前例(2019年▲千田七段-△高見七段戦、先手勝ち)があり、角を7筋に成るか8筋に成るかの2拓でしたが、藤井王位はより攻撃的な7筋に成る手を選択して前例を離れます。佐々木七段は1筋の歩を突き捨てて歩を垂らしますが、藤井王位は49分の熟考で馬を8筋に上がり、先手の角を睨みつつ飛車の横利きを通します。

中盤の大長考

佐々木七段は89分の長考で7筋に歩を打って後手の飛車の横利きを遮り、藤井王位が飛車で取ると、角を5筋に上がって馬のラインから逃れつつ飛車に当てます。藤井王位が飛車を浮いて1筋の歩に紐を付けると、佐々木七段は4筋の歩を突いて後手の飛車の横利きを止めます。藤井王位が1筋の垂れ歩を香で取ると、佐々木七段は飛車を4筋に回して戦火を拡げます。次の56手目を藤井王位が考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井王位の68%と傾き、残り時間は藤井王位が2時間24分、佐々木七段が2時間28分と拮抗しています。

佐々木七段の勝負手

昼休が明けると藤井王位は6筋の歩を突いて馬の利きを自陣に通し、佐々木七段が飛先の歩を交換して歩切れを解消すると、5筋の歩も突いて玉頭攻めを緩和しつつ先手の角に圧力を掛けます。佐々木七段は7筋に貴重な歩を合わせ、藤井王位が飛車を3筋に回すと、▲4七金と自陣は薄くなるものの後手の飛車を取りに行く勝負手を放ちます。

飛車と角の取り合い

藤井王位が17分の少考で角取りに5筋の歩を伸ばすと、佐々木七段は3筋の歩を伸ばして飛車を捕獲します。藤井王位は飛車を2筋にかわし、銀で取らせることで1手稼いでから角を取り返し、飛車取りに△3九角と打ち込みます。佐々木七段が飛車を1筋にかわすと、藤井王位は5筋の歩を成り捨ててから2筋の桂取りに△7四馬と引きます。AIの評価値は藤井王位の80%と大きく傾いています。

角切りの猛攻

佐々木七段が39分の熟考で5筋に歩を打って桂を守ると、藤井王位は△5七角成と金を食いちぎり、5筋に歩を合わせて追撃します。佐々木七段が6筋に金を上がって玉頭を守ると、藤井王位は5筋の歩を取り込んで先手陣の金を上ずらせてから、4筋に金を打って先手の玉頭を押さえつつ銀に当てます。

盤石の終息

佐々木七段は取られそうな銀で桂を食いちぎり、3筋に桂を跳ねて反撃を図りますが、藤井王位はもらった銀を5筋の金頭に打って攻め掛かります。佐々木七段は金銀交換に応じ、2筋に桂を跳ねて銀に当てますが、藤井王位は馬で王手し、金を前進して先手玉を追い詰めます。佐々木七段は5筋に歩を垂らして後手玉に嫌味を付けますが、藤井王位が取られそうな銀を上がって5筋の守りにも利かせると、深々と頭を下げて投了を告げました。

まとめ

本局は佐々木七段が得意の相掛かりから積極的に右銀を繰り出し、封じ手の局面まで前例のある進行となりました。藤井王位は馬を攻撃に活用する構想で前例を離れ、先手の飛角銀の攻めを封じて優勢となりました。佐々木七段は守りの金で後手の飛車を取りに行く勝負手を放ちましたが、藤井王位は飛車を取らせる代わりに角を取り、取った角で先手陣の金を剥がして寄せ切りました。投了図では先手の駒台に飛角銀桂が乗っていますが後手陣には攻め込む隙がなく、藤井王位は持ち時間を1時間近く残しての快勝となりました。
藤井王位は七番勝負を2勝0敗とリードし、「これまでの2局の内容をしっかり振り返って、第三局以降も頑張りたいと思います」と、淡々と話しました。大きな1勝にもいつもと変わらない姿勢には、防衛に向けて揺るぎない自信が感じられます。
佐々木七段は先手番を落として苦しい状況となりましたが、「課題が山積みなので、しっかりと修正して良い将棋が指せるよう頑張りたいと思います」と力強く話しており、第三局以降の巻き返しに期待したいと思います。

本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦第二局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟

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