「観る将」が観た第4期白玲戦七番勝負第四局
10月12日、ヒューリック杯白玲戦七番勝負第四局が、京都市の「ザ・ゲートホテル京都高瀬川」で行われました。第四局は元々9月28日に予定されていましたが、西山朋佳白玲の新型コロナ感染により、第五局が予定されていたこの日に延期されています。挑戦者の福間香奈女流五冠も妊娠中であり、両者の体調が気遣われる一局となりました。
戦型は相振り飛車
金屏風が設けられた対局室に、福間女流五冠が黒地に花柄のゆったりしたワンピースで入室すると、西山白玲は深紫に小さな花柄の着物に青緑の袴で入室します。先手の西山白玲が三間飛車に振り角を交換すると、福間女流五冠は飛車で取って向かい飛車に振ります。西山白玲が向かい飛車に振り直し、お互いに飛先の歩を交換すると、福間女流五冠は△8七銀と上がり、銀冠の形を作ります。
バランス型の陣形
両者とも陣形を整備し、福間女流五冠が△4二金と上がってバランス重視の陣形を敷き、△3三桂と跳ねて攻撃姿勢を見せると、西山白玲も▲4七金右とバランス型の陣形を組んで備えます。福間女流五冠が29分の熟考で△4三金と上がって桂頭を補強すると、お互いに7筋に桂を跳ね合ってから、西山白玲も▲3七桂と跳ねます。
西山白玲が地下鉄飛車
福間女流五冠が玉を7筋から5筋の間で移動して手待ちすると、西山白玲は▲1八香~▲1九飛と地下鉄飛車を発動します。福間女流五冠が3筋の歩を突き捨て、次の62手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は西山白玲が2時間52分、福間女流五冠が2時間10分となっています。
西山白玲が1筋を突破
昼休が明け、福間女流五冠が4筋の歩も突き捨てて△4四歩と合わせると、西山白玲は28分熟考し、手抜いて1筋の歩をぶつけます。福間女流五冠は4筋の歩を取り込み、西山白玲が1筋の歩を取り込むと、福間女流五冠は△8五桂と跳ねて桂交換し、西山白玲が▲1三歩成と"と金"を作ると、飛車を4筋にかわします。
福間女流五冠の馬
西山白玲は▲5七金上と両取りに桂を打たれる傷を消し、福間女流五冠が△8二玉と囲いに入城すると、7筋の歩をぶつけます。福間女流五冠は△6八角と打ち込み、西山白玲が飛車を6筋に回すと、△8六角成と馬を作ります。西山白玲は銀取りに▲6五桂と打ち、福間女流五冠が銀を6筋に引いてかわすと、残り1時間を切って▲2六歩と自玉の懐を拡げます。福間女流五冠は△4四金と上がって先手玉に圧力を掛けますが、西山白玲は飛頭を叩いて吊り上げてから、▲2七玉と上部脱出を図ります。
西山白玲の馬
福間女流五冠も残り1時間を切り、△6四歩と突いて桂に当てつつ飛車の横利きを守りに利かすと、西山白玲は▲8四歩と銀頭を叩いて吊り上げ、飛車取りに▲5二角と打ち込みます。福間女流五冠は飛車を8筋にかわし、西山白玲が▲7四角成と飛車を追うと、△4三桂と据えます。西山白玲は馬を飛車と刺し違えてから▲3六金と上がって王手金取りを両取りを防ぎ、福間女流五冠が△6五歩と桂を取ると、▲8一飛と王手で打ち込みます。
福間女流五冠の玉頭攻め
福間女流五冠は△8二金と寄って防ぎ、西山白玲が▲1一飛成と香を取って竜を作ると、△2四桂と打って金を捕獲します。西山白玲は銀桂両取りに▲2二竜と引き、福間女流五冠が△3六桂と金を取って銀に当てると、▲3九銀とかわします。西山白玲は竜で銀を取ると自玉が詰んでしまうので、▲3三竜と桂を取って辛抱しますが、形勢は福間女流五冠に傾いてきたようです。
福間女流五冠が王手竜取り
福間女流五冠は△5三銀と上がって金に紐を付け、西山白玲が▲1五香と走って脱出路を作ると、歩の連打で竜の位置をずらしてから、△7五馬と自玉のコビンに迫る歩を払いつつ銀に紐を付けます。西山白玲は▲1六玉と上部脱出を図り、福間女流五冠が△3五金と先手玉の上部を押さえると、金取りに▲2七桂と打ちます。福間女流五冠が王手竜取りに△3四角と打つと、西山白玲は竜で角を食いちぎり、王手桂取りに▲6一角と打ち込みます。
福間女流五冠が上下から挟撃
福間女流五冠は歩で王手を防ぎ、西山白玲が▲4三角成と桂を取って馬を作り金に当てると、△4四金打と馬に当て返します。西山白玲は▲5二馬とかわし、福間女流五冠が△1九飛と王手で打ち込むと、歩で合い駒します。福間女流五冠は△2八桂成と畳み掛け、西山白玲が金取りに▲3六香と打つと、△2七成桂と詰めろを掛けます。西山白玲は玉で成桂を取り、福間女流五冠が△2九飛成と竜を作って王手すると、桂で合い駒します。
西山白玲が待望の反撃
緊迫した終盤戦となり、先手玉を上下から包囲した福間女流五冠の優勢が続いていますが、西山白玲は懸命に凌いで決め手を与えません。福間女流五冠が△6六歩と伸ばして銀に当てると、銀を渡すと先手玉は詰んでしまうので、西山白玲は金で取って馬に当て返します。持ち時間を使い切った福間女流五冠は△2四桂と打って先手玉の上部を押さえ込みますが、詰めろにはなっていないようで、西山白玲は馬金交換してから1分将棋となり▲6五角と王手します。西山白玲に反撃のターンが回り、形勢は逆転模様です。
急転直下の終局
福間女流五冠は玉を△9三玉とかわし、西山白玲が▲9五歩とぶつけると、角取りに△6四金と打ちます。西山白玲は9筋の歩を取り込んで王手し、福間女流五冠が△8四玉とかわすと、▲7六桂と王手して銀桂交換します。福間女流五冠は金で角を取りますが、後手玉には即詰みが生じており、西山白玲が▲7五銀打と王手すると、50秒まで秒読みの声を聞いて投了を告げました。
まとめ
本局は相振り飛車の持久戦模様となりましたが、西山白玲は地下鉄飛車を通して打開しました。福間女流五冠は1筋に"と金"を作らせる代わりに玉頭から攻め掛かり、西山白玲が上部脱出を図ると、上下から挟撃態勢を作って優勢の局面を築きました。西山白玲は決め手を与えずチャンスを待ち、一瞬の隙を突いて形勢を入れ替えると、両者秒読みの中で鮮やかに寄せ切りました。
これで2勝2敗のタイスコアとなり、終局後のインタビューではお互いに「体調に気をつけて頑張りたい」と口を揃えましたが、次局以降も熱戦が続くことを期待したいと思います。
ヒューリック杯白玲戦は、ヒューリック株式会社と日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。