「観る将」が観た第7期叡王戦五番勝負第二局
5月15日、愛知県の名古屋東急ホテルで叡王戦第二局が行われました。第一局を制した藤井聡太叡王が一気に防衛に王手を掛けるのか、本局は先手番となる出口若武六段がタイスコアに戻すのか、注目の一局となりました。前日のインタビューでは、藤井叡王は「全力を尽くして是非熱戦にできればと思っています」、出口六段は「第二局からは熱戦で巻き返しを図っていければと思っています」と話しています。
第一局に続いて相掛かりに
挑戦者の出口六段が薄灰色の着物に紺系の縞模様の羽織で早めに入室すると、8分程して薄緑の着物に白い羽織で入室します。定刻となり、先手の出口六段が飛先の歩を突くと、藤井叡王はお茶を口にしてから飛先の歩を突きます。出口六段が相掛かりに誘導し、藤井叡王が先に飛先の歩を交換します。藤井叡王が素早く右銀を前進すると、出口六段は飛先の歩を交換して六段目に引きます。藤井叡王が更に△6五銀と前進すると、出口六段は▲4五歩と突いて飛車の横利きで7筋の歩を守ります。
早くも勝負所か
藤井叡王が早くも24分の熟考で△3三角と上がると、出口六段も61分の長考で▲7七角と上がります。お互いに駒組みに戻り銀冠を目指したかに見えましたが、藤井叡王は18分の考慮で△2五歩と突き、飛車で取らせて角取りに△7六銀と踏み込みます。出口六段が角を交換して銀取りに▲2六飛と引くと、藤井叡王はおとなしく△6五銀と引きます。次の45手目を出口六段が考慮中に昼休となりました。激しいやり取りがありましたが、形勢はまったくの互角です。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井叡王が2時間37分、出口六段が2時間25分と拮抗しています。
叡王が桂捨ての仕掛け
昼休が明けると、出口六段は▲1七桂と跳ねて飛頭を守ります。この手を見た藤井叡王は34分の熟考で更に△5四銀と引きます。出口六段が後手の飛車がいる8筋の歩を伸ばすと、藤井叡王は1筋の歩を突き捨ててから桂頭に△1六歩と打って飛車で取らせます。藤井叡王が28分の熟考で△4五桂と跳ねると、出口六段は39分考えて桂取りに▲4六歩と打ちます。先手の飛車の横利きが止まり8筋への転回を防いだ藤井叡王は、△3七桂成と成り捨ててから金香両取りに△2八角と打ち込みます。
まさかの千日手
藤井叡王が香を取って馬を作ると、出口六段は▲2五桂と跳ねて飛車を馬に当てつつ端攻めを狙います。出口六段は▲3三歩と金頭を叩いて引かせてから馬取りに▲2六飛と回ります。藤井叡王は△1八馬とかわしますが、出口六段は▲1六飛と戻します。この飛車と馬のやり取りが繰り返され、16時36分に74手までで千日手が成立しました。残り時間は藤井叡王が41分、出口六段が46分となっています。
指し直し局も相掛かりへ
規定により30分後の17時6分から、先後を入れ替えての指し直しとなりました。持ち時間は残りが少ない藤井叡王に19分を足して1時間とし、出口六段にも19分を足して1時間5分での開始となります。藤井叡王はいつも通りお茶を口にしてから飛先の歩を突き、出口六段もお茶を口にしてから飛先の歩を突きます。藤井叡王が相掛かりに誘導し、出口六段が先に飛先の歩を交換します。残り時間が少ないこともあり、両者とも時間を使わずに指し進め、藤井叡王が3筋の歩を突いて▲3七桂と跳ねると、出口六段は△3三角と上がります。
叡王の踏み込み
藤井叡王がここで初めて手を止め、9分考えて▲3三同角と取ると、出口六段は△3三同桂と取ります。藤井叡王が銀を上がって飛車成りを防ぐと、出口六段は7筋の横歩を取ります。藤井叡王が更に9分考えて飛先の歩を交換すると、出口六段は△2二銀と受けます。藤井竜王が強く▲2一角と打ち込んで席を外すと、出口六段は頭を抱える仕草をしてから10分考えて飛車取りに△2三銀と上がります。藤井叡王はわずか2分の考慮で飛車を見捨てて▲3二角成と金を取って馬を作り、出口六段は飛車を取ります。まだ指し手は32手ですが激しい将棋となり、AIの評価値は藤井叡王の60%と少し傾いてきました。
叡王の大技
藤井叡王が▲8二歩と桂頭を叩くと、出口六段は7分考えて9筋に桂を逃がします。藤井叡王はすぐに▲8一歩成と成り捨て、▲4四金と歩頭に打ちます。藤井叡王は早くも勝ちを確信したのか、深い前傾を解いて静かに背筋を伸ばします。この金を取ると馬で飛車を抜かれてしまうので、出口六段は8分考えて△8六飛と馬のラインから外して受けに利かせます。藤井叡王が▲4三馬と王手すると、出口六段は△5一玉と引いて凌ぎます。藤井叡王が▲5三金と詰めろを掛けると、出口六段は△8二飛と引いて粘ります。AIの評価値は藤井叡王の78%と大きく傾きました。
挑戦者の反撃
藤井叡王が▲8三歩~▲7二歩と歩の連打で飛車の横利きを遮ると、出口六段は9分考えて王手金取りに△8六角と打ちます。藤井叡王が桂で王手を防ぐと、出口六段は角で金を食いちぎります。藤井叡王が角を取って銀取りに▲7一馬と入ると、出口六段は△4八歩と金頭を叩いて待望の反撃です。藤井叡王は金で取ると、出口六段は△8七歩と銀頭を叩いて引かせます。出口六段はついに1分将棋に突入しましたが、△3九飛と打ち込んで詰めろを掛けます。藤井叡王も1分将棋になるまで考えて▲4九金と引き、更に歩を打って竜の利きを止めます。
盤石の寄せ
出口六段は3筋の歩を伸ばして桂を取っての追撃を目指しますが、藤井叡王は▲6五桂~▲4六角と再び後手陣に攻め掛かります。出口六段はやむなく桂を取りますが、藤井叡王は▲2四角と銀を取って桂に当てます。桂を取られて馬を作られては粘れないので、出口六段は桂に紐を付けつつ角取りに△3四金と打ちますが、藤井叡王は▲5三銀と詰めろで打って後手玉を追い詰めます。出口六段は玉の早逃げで逃れますが、藤井叡王が王手竜取りに▲5四馬と引いたのを見て投了を告げました。
第二局を終えて
千日手局は藤井叡王が積極的な仕掛けを見せ、難しい中盤戦となりました。藤井叡王は「序盤でちょっと失敗してしまった」、出口六段も「攻め方を間違えてしまった」と、両者とも形勢を思わしくなく感じていたようで、千日手を打開することなく指し直しとなりました。
指し直し局は相掛かりの中でも激しいと言われる変化に踏み込みましたが、出口六段に見落としがあったようで中盤の入り口で藤井叡王がリードを奪いました。藤井叡王が駒損での細い攻めを繋げられるかどうかという勝負になりましたが、大技小技を織り交ぜて着実にリードを拡げて寄せ切りました。
本シリーズは藤井叡王の2勝0敗となり防衛に王手が掛かりましたが、出口六段は「もうちょっと良い内容にできるように頑張っていきたい」と話しており、次局での熱戦を期待したいと思います。