「観る将」が観た第42回JT杯準決勝 藤井三冠vs永瀬王座
11月3日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)準決勝、藤井聡太王位・叡王・棋聖と永瀬拓矢王座の公開対局が、愛知県のポートメッセなごやで行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に各5分の考慮時間あり)の早指し棋戦です。
藤井三冠は2回戦からの登場で、千田七段を破って勝ち上がりました。永瀬王座も2回戦からの登場で、糸谷八段を降して勝ち上がっています。両者は研究仲間として知られており、手の内を知り尽くした間柄と思われますが、対戦成績は藤井三冠の6勝1敗と少し差が付いています。
藤井三冠は濃紺の着物に焦茶色の羽織で、永瀬王座はベージュの着物に薄い青灰色の羽織で登場します。振り駒で先手となった藤井三冠は、グラスの水を口にしてから飛先の歩を伸ばします。永瀬王座も飛先の歩を伸ばし角換わりの将棋となりました。永瀬王座が腰掛け銀に構えると、藤井三冠は9筋と4筋の位を取り持久戦調の駒組みを進めます。お互いに牽制しつつ手待ちが続き、永瀬王座が△9二香と上がると、藤井三冠は少し時間を使って▲6九玉と戦場から玉を遠ざけます。永瀬王座もここで少し時間を使い、銀取りに△6五桂と仕掛けたところで封じ手となりました。
藤井三冠の封じ手は▲6八銀と引く手でした。ABEMAではここからAIの評価値が表示され、藤井三冠の55%となっています。永瀬王座は飛先の歩を交換したところで持ち時間を使い切り、7筋の横歩を取ります。藤井三冠も持ち時間を使い切り、桂取りに▲6六歩と突きます。大盤解説の中村修九段は「いやー、最強の受け方ですね」とため息を漏らします。永瀬王座が△8八歩と叩くと、藤井三冠は▲7七桂と桂交換を迫ります。両者考慮時間を使って、ギリギリの攻防が続きます。
永瀬王座がじっと"と金"を作ると、藤井三冠は強く▲6七金~▲7六銀と上がって飛車を詰ませます。永瀬王座が苦しくなったかと思われましたが、△8五角と返し技を繰り出します。先手は飛車か角が取れる状態ですが、飛車を取ると角に成られて後手勝勢、角を取ると飛車に成られて間接王手飛車が掛かります。藤井三冠は当然のように▲5八角と後手の角成を防いでから飛車を取り、▲8二飛と角金両取りに打ちます。永瀬王座は角を切ったところで5回目の考慮時間を使い切り、△7一銀と飛車取りに打って金に紐を付けます。AIの評価値は藤井三冠の84%と、大きく傾いてきました。
藤井三冠は▲9二飛成と竜を作ると、永瀬王座は△6八金と王手角取りに打ちます。藤井三冠は角を見捨てて▲4九玉と逃げます。藤井三冠が▲7四香と打って竜の活用を図ると、永瀬王座は銀を犠牲にして金を自玉の傍に引き付けます。藤井三冠が一転して後手の玉頭から継ぎ歩攻めで挟撃態勢を作ると、永瀬王座はここまでの手順を振り返っているのか斜め上に視線を送ります。藤井三冠は再び後手玉の側面から銀と角を打ち込み、永瀬王座に粘る余地を与えず鮮やかに寄せ切りました。
この結果、藤井三冠は11月21日に行われる豊島竜王との決勝戦に駒を進めました。豊島竜王が2年連続3回目の優勝を果たすのか、藤井三冠がJT杯でも初優勝を遂げるのか、非常に楽しみな顔合わせとなりました。今年度3棋戦でタイトルを争った両雄が、JT杯決勝という舞台でどのような将棋を魅せてくれるのか、熱戦を期待したいと思います。