「観る将」が観た第65期王位戦挑戦者決定戦
5月30日、お~いお茶杯王位戦の挑戦者決定戦が行われました。ともに実力者の渡辺明九段と斎藤慎太郎八段の顔合わせとなっています。
渡辺九段は前期王位リーグで残留し、今期は羽生九段に敗れたものの、飯島八段、森内九段、西川六段、木村九段に勝って4勝1敗で白組優勝となりました。本局に勝てば、失冠した第81期名人戦以来のタイトル戦登場、そして意外なことに初めての王位挑戦となります。
斎藤八段は今期、予選を突破して3期ぶりの王位リーグ参戦となり、豊島九段には敗れたものの、石井七段、佐々木(大)七段、佐藤(天)九段、藤本五段に勝って4勝1敗で紅組優勝となりました。本局に勝てば、当時の渡辺名人に挑戦した第80期名人戦以来のタイトル挑戦となります。
戦型は相掛かり
振り駒で先手となった渡辺九段は相掛かりに誘導し、斎藤八段が飛先の歩を交換すると、9筋の位を取ってから飛先の歩を交換し、3筋の横歩も取ります。渡辺九段が3筋と7筋の歩を伸ばして飛車の横利きを通し、8筋に回してぶつけると、斎藤八段は8筋に銀を上がって飛交換を拒絶します。
飛車切りの強襲
斎藤八段が金銀を繰り出すと、渡辺九段は▲5四飛と金を食いちぎり、4筋に角を飛び出します。斎藤八段が桂香両取りに△2九飛と打ち込み、8筋の桂を取って竜を作ると、渡辺九段は1筋の香を取って馬を作ります。渡辺九段は歩で竜を追い返し、3筋に香を打って桂香交換し、馬を角と刺し違えてから王手飛車取りに▲6四角と打って飛角交換します。駒割りは角金交換で後手の駒得ですが、後手陣は大きく崩され形勢は先手に傾いているようです。
渡辺九段が攻勢
渡辺九段は金取りに▲4五桂と打ち、斎藤八段が手抜いて銀取りに△5五桂と打つと、お互いに銀と金をかわしてから、後手陣に飛車を打ち込んで王手します。斎藤八段は香で合い駒しますが、渡辺九段は金頭を歩で叩いて上ずらせ、歩で合い駒の香を取って"と金"を作り、王手角取りに金を打って角を取ります。
王手竜取りの勝負手
苦しくなった斎藤八段は△5九金と王手でタダ捨てし、歩頭に角を飛び出して王手しつつ竜の横利きを通して先手の竜に当てる勝負手を放ちますが、渡辺九段は冷静に竜を取らせる代わりに角を取ります。渡辺九段は▲5三金と打って後手玉を縛り、斎藤八段が王手金取りに桂を打って金を取ると、香で王手して長手数の即詰みに討ち取りました。
まとめ
本局は相掛かりから渡辺九段が積極的に動き、飛車切りの強襲から小駒の攻めで後手陣を崩しました。斎藤八段は金のタダ捨てから王手竜取りの大技で勝負しましたが、渡辺九段は冷静に対処し鮮やかな即詰みに討ち取りました。
王位戦では自身初めての挑戦権を獲得した渡辺九段は、失冠した昨年の名人戦以来約1年ぶりとなるタイトル戦登場について、「こんなに早くタイトル戦に戻ってこられるとは思っていなかった」と話しました。棋聖・王将・棋王・名人とタイトルを奪われ続けている藤井王位に対しては「結果が出せていないので、今までの借りを返せるようにやりたいなと思います」と話しており、夏の王位戦が熱い戦いになることを期待したいと思います。
本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。 https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦挑戦者決定戦 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟