将棋界2020年度前半の升田幸三賞と名局賞候補
2020年度も前半が終わりました。将棋界では年度毎に将棋大賞の選考がありますが、観る将として最も興味ある賞は、升田幸三賞、升田幸三賞特別賞、名局賞、名局賞特別賞です。私は中継がある藤井二冠の対局やタイトル戦など、ごく限られた範囲でしか観戦していないので、非常に偏った視点になることをお断りした上で、候補となり得る対局を振り返ってみます。
■升田幸三賞、升田幸三賞特別賞
●棋聖戦五番勝負第二局(△5四金)
本局では、AIソフトが6億手読まないと発見できない△3一銀も話題となりましたが、相矢倉の急戦に対して事前に準備していた△5四金が、従来の感覚では指せない升田幸三賞に相応しい名手だったと思います。第四局で渡辺棋聖(当時)が早速対策手順を見せましたので、今後再び指されることはないのかもしれませんが。
●振り飛車ミレニアム(トーチカ囲い)
誰が使い始めたのか知らないのですが、久保九段が王座戦挑戦者決定戦や王座戦五番勝負で立て続けに採用しているのが印象的です。最近少数派となっている振り飛車党にとって、光明となる作戦かもしれません。
■名局賞、名局賞特別賞
●棋聖戦五番勝負第一局 渡辺棋聖(当時)vs藤井七段(当時)
藤井七段(当時)が史上最年少でタイトル挑戦する初めての一局でしたが、特に終盤が手に汗握る素晴らしい将棋だったと思います。渡辺棋聖(当時)が16連続王手を掛け、藤井七段(当時)が応手を間違えずに逃げ切った形になりましたが、両者が最善を尽くしたからこそ現れた手順でした。渡辺棋聖(当時)がいつ詰まないことを悟ったのかわかりませんが、藤井七段(当時)に逆王手を掛けさせて投了するというタイミングも、天晴れという他ありません。タイトル戦という最高峰の舞台でもあり、名局と呼ぶに相応しい好局でした。
●王将戦挑戦者決定リーグ 藤井二冠vs羽生九段
死のリーグと呼ばれる王将リーグの開幕戦でしたが、横歩取りから藤井二冠が激しく攻めたて、一瞬の隙をついて反撃した羽生九段が長手数の即詰みに討ち取った一局でした。難しい中盤戦に羽生九段が放った△4八歩が最後の寄せに大きく効き、全体的に羽生九段の完璧な差し回しが光りました。この両者だからこその応酬が随所に見られ、見応えのある一局でした。
●棋聖戦挑戦者決定戦 永瀬二冠(当時)vs藤井七段(当時)
解説の飯島七段が「この将棋は、善悪を超えた芸術作品だと思います」と発言したことで話題になりました。本局に勝った方が棋聖挑戦権を得るという両者負けられない一戦でしたが、日頃から1対1の研究対局を重ねてきた二人の公式戦初対局でもありました。永瀬二冠(当時)が相掛かりから研究手順を見せわずかにリードしていましたが、藤井七段(当時)が反撃に転じてからは隙を見せずに寄せ切りました。形勢がはっきり傾いてからの永瀬二冠(当時)の粘りを含め、素晴らしい一局でした。
今年度も残り半分となりましたが、まだまだ従来の常識を覆す新手・妙手が指され、観る者を感動させる名局が誕生することを期待したいと思います。
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