「観る将」が観た第3期白玲戦七番勝負第七局
10月28日、ヒューリック杯第3期白玲戦七番勝負第七局が、東京の「浅草ビューホテル」で行われました。前期に続いてフルセットにもつれ込んだ最終局を制するのは、連覇を目指す里見香奈白玲か、奪還を狙う西山朋佳女流三冠か、女流棋界大注目の一局となりました。
前夜祭では、里見白玲が「いよいよ明日最終局なんですけれども自分の力を出し切れるように頑張って参りたいと思います」、西山女流三冠は「いまは自分の持っている力をしっかり出し切って、悔いのない最終局にできればと思っています」と挨拶しました。
三間飛車から相向かい飛車
西山女流三冠が藤色の着物と象牙色の袴で入室すると、里見白玲は青に黄色のグラデーションが入った着物と紺色の袴で入室します。改めて振り駒が行われ、先手となった西山女流三冠が三間飛車に振り、角道を止めて向かい飛車に振り直すと、里見白玲は△4四角と浮いて向かい飛車に振ります。
金無双対菊水矢倉
西山女流三冠が飛先の歩を交換し、▲2八銀~▲3八金と2筋からの攻撃に備えると、里見白玲は5筋の位を取り△5四銀と支えます。西山女流三冠は▲8六角と飛び出して後手の駒組みを牽制し、里見白玲が金無双に囲ってから飛先の歩を交換すると、▲3七桂と跳ねて菊水矢倉の形に組みます。
西山女流三冠の仕掛け
里見白玲が1筋の位を取り、△9三銀~△8四銀と繰り出すと、西山女流三冠は24分の熟考で5筋の歩をぶつけます。次の56手目を里見白玲が考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は両者とも2時間31分で並んでいます。
里見白玲の長考
里見白玲が昼休を挟む41分の長考で△2五桂と跳ねて桂交換すると、西山女流三冠は5筋の歩を取り込み、9筋の歩を突き捨て、▲8二歩と桂頭を叩きます。里見白玲が玉で取ると、西山女流三冠は▲8五歩と打って銀を9筋に引かせ、▲9五角と後手の玉頭に攻め掛かります。早くも西山女流三冠がわずかに指し易くなったようで、里見白玲は残り1時間を切る64分の長考で△6四角と引き、先手の十字飛車の筋を消してチャンスを待ちます。
西山女流三冠の玉頭攻め
西山女流三冠は▲7五桂と打って攻め駒を足し、里見白玲が△7一桂と受けると、▲8四歩とぶつけます。里見白玲は銀で取り、西山女流三冠が角で取ると、取れる角を後回しにして△9九香成と飛び込みます。西山女流三冠は6筋の歩を伸ばして角を追ってから▲9五角と引き、里見白玲が角取りに△9一香と打つと、36分の熟考で▲8四歩と合わせてから、2筋の歩を突いて飛車に当てます。
2枚竜の猛攻
里見白玲は飛車を見捨てて玉頭に迫る角を取り、西山女流三冠が2筋の飛車を取ると、△7七角成と桂を取りつつ馬を作って飛車と銀に当てます。西山女流三冠は王手銀取りに▲8四飛と走り、里見白玲が歩で防ぐと、▲8三同桂成と食いちぎり、▲9一銀と捨てて後手玉を下段に落としてから▲9三歩と垂らして詰めろを掛けます。里見白玲は△8二玉から5筋方向に逃走しますが、西山女流三冠は▲9二飛から2枚の竜を作って後手玉を追い、▲5三歩と金頭を叩きます。
鮮やかな即詰み
受け切れないと見た里見白玲が金取りに△2六桂と打ち、先手陣に嫌味を付けて下駄を預けると、西山女流三冠は▲7一竜寄と桂を取って王手します。合い駒に持ち駒を使っては勝ち目がないので、里見白玲は玉を4筋に上がってかわしますが、後手玉には長手数の即詰みが生じたようで、西山女流三冠は▲5二歩成から連続王手で迫ります。里見白玲は数手指し続けましたが、▲4四桂と歩頭桂の王手を見て投了を告げました。
まとめ
本局は序盤から西山女流三冠が工夫を見せ、菊水矢倉の陣形を組んで後手玉の玉頭から攻め掛かりました。里見白玲は長考を重ねて反撃の機会を探りましたが、西山女流三冠は緩みなく攻め続け、自陣は手つかずのまま寄せ切りました。自身が「今日は自分なりに、今の棋力はしっかり出せたかな」と話した通り、西山女流三冠らしい豪腕ぶりを魅せた快勝だったと思います。
本シリーズの振り返り
対局直後のインタビューで、西山女流三冠は「まだまだ実力不足なところも多いと思っているので。そういったところを克服していけるように頑張りたいと思っています」、里見白玲は「いい将棋を落としてしまう対局がありましたし、一方的な内容もあったので。それがいまの実力だと思うので、見つめ直すいい機会になったかなと思います」と本シリーズを振り返りました。
今期の七番勝負は、男性棋戦の朝日杯一次予選を突破するなど好調の西山女流三冠が、第四局までに3勝して一気に奪還するかと思われましたが、里見白玲も意地を見せて第五局から連勝し、2期連続でフルセットにもつれ込む熱戦となりました。「令和の王者が真っ白なページに時代を刻む」という願いを込めて創設された白玲戦は、まさに女流棋界の王者を決める棋戦として両者が歴史を刻んでいると言っても過言ではありません。女流棋界を牽引する2人が持てる力を振り絞り、七番勝負ならではの好勝負だったと思います。
記者会見で西山新白玲は「女流棋士の皆さんが目指すところのタイトルだと思っているので、そのタイトルを1年預かるということで、身が引き締まる思い」と話しており、今後も名勝負を期待したいと思います。
ヒューリック杯白玲戦は、ヒューリック株式会社と日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。