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「観る将」が観た第45回JT杯準決勝 藤井JT杯vs広瀬九段

11月2日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)準決勝、藤井聡太JT杯と広瀬章人九段の公開対局が、名古屋市の「Aichi Sky Expo」で行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に1分の考慮時間5回)の早指し棋戦です。

前回2連覇を成し遂げた藤井JT杯は2回戦から登場し、佐々木(大)七段を降しています。広瀬九段も2回戦からの登場で、丸山九段を破って勝ち上がっています。両者の対戦成績は藤井JT杯の11勝3敗で、一昨年度の順位戦A級プレーオフ以来の対局となります。


照明を落とした会場に、向かって右から藍色の着物と灰色の袴に水色の羽織をまとった藤井JT杯が、左から灰色の着物と亜麻色の袴に淡い茶色の羽織をまとった広瀬九段が壇上に上がります。司会者がメッセージを求めると、藤井JT杯は「準決勝という大きな舞台での対局でもありますし、先程行われたこども大会も大変な熱戦だったと聞いているので、それに負けないような熱戦が指せるように全力を尽くしたいと思っています」、広瀬九段は「藤井さんの地元の東海対局ということで非常にやりにくいところもあるんですけど、私のことを応援してくれている方も多少はいると思いますので、そういった方々に恥ずかしくない内容の将棋を指せればと思っています」と答えています。

戦型は相掛かり

観客の中から抽選で選ばれた方の振り駒で先手となった広瀬九段の誘導で、相掛かりの将棋になります。藤井JT杯が飛先の歩を交換すると、広瀬九段も飛先の歩を交換し、少し時間を使って3筋の横歩も取ります。藤井JT杯は1筋の歩をぶつけ、広瀬九段が角道を開けると、角を交換してから△3三金と上がって先手の飛車にぶつけます。

いきなり激しい展開へ

広瀬九段が▲3五飛と引いてかわすと、藤井JT杯は△4四角~△2四歩と飛車を下段に追い、1筋の歩を取り込みます。ここで解説の斎藤(慎)八段が封じ手を宣言し、広瀬九段はすぐに封じました。

早くも広瀬九段が30秒将棋へ

広瀬九段の封じ手は、候補の一つに挙げられていた▲1八歩と受ける手でした。藤井JT杯は7筋の歩を突き、早くも持ち時間を使い切った広瀬九段が4筋の歩を突いて後手の角に圧力を掛けると、5筋の歩を突いて角の引き場所を作ります。広瀬九段は▲4八金と上がり、藤井JT杯が7筋に桂を跳ねると、▲4七銀と上がって陣形を整えます。

お互いに陣形を整備

藤井JT杯は玉を4筋に上がり、広瀬九段が考慮時間を1回使って5筋の歩を突くと、△2二銀と上がります。広瀬九段は▲7七銀と上がり、藤井JT杯が玉を3筋に寄ると、4筋の歩を伸ばして角に当てます。藤井JT杯は角を6筋に引いてかわし、広瀬九段が▲6六銀と繰り出すと、飛車を下段に引いて横利きを通します。

難解な中盤戦

広瀬九段は▲2七飛と浮いて1筋を受け、持ち時間を使い切った藤井JT杯が△6五桂と跳ねて先手の銀の動きを牽制すると、7筋に桂を跳ねてぶつけます。中盤の難所を迎え、藤井JT杯が考慮時間を使ってじっと9筋の歩を突くと、広瀬九段は桂交換してから考慮時間を使って▲6五同銀と前進します。藤井JT杯は考慮時間を使って△8五飛と浮いて銀に当て、広瀬九段が▲7五歩と突くと、更に考慮時間を1回使って同飛と応じます。

藤井JT杯が飛車と金桂の2枚替え

広瀬九段は▲7七桂と打って銀に紐を付け、藤井JT杯が△8五桂と打つと、▲7六歩と打って飛車を捕獲します。藤井JT杯は飛車を取らせる代わりに△7七桂成~△7八成桂と金桂の2枚を取り、広瀬九段が▲8一飛と打ち込むと、△5一桂と打って守ります。ずっとほぼ互角の範囲で揺れていたAIの評価値は、広瀬九段の59%とわずかに傾きます。

広瀬九段の竜

広瀬九段は9筋の香を取って竜を作り、藤井JT杯が6筋に歩を合わせて取らせてから△7七成銀と引くと、考慮時間を使い▲7九香と打って催促します。藤井JT杯は△6八金と王手し、広瀬九段が玉を4筋に引いてかわすと、金で香を取ります。香で飛車を捕獲される筋があるので、広瀬九段は考慮時間を使って▲2六歩と守り、藤井JT杯が3筋の歩をぶつけると、▲6一竜と後手陣を崩しにいきます。

広瀬九段が攻勢

藤井JT杯は3筋の歩を取り込み、広瀬九段が▲5四銀とぶつけると、△3七歩成と桂を取って王手し、△3六歩と飛頭を叩いて銀で取らせてから、考慮時間を使って△2三玉と早逃げします。広瀬九段は▲4一角と王手し、藤井JT杯が歩で合い駒すると、▲6三銀不成と銀を取ります。AIの評価値は広瀬九段の82%と大きく傾いています。

藤井JT杯の逆襲

藤井JT杯は飛車取りに△2六角と飛び出し、広瀬九段が▲5二竜と金を取ると、金取りに△4六香と打ちます。広瀬九段が最後の考慮時間を使って▲4七銀と補強すると、藤井JT杯は飛角交換してから銀香交換し、△6八飛と打って詰めろを掛けます。AIは持ち駒の金を投じて逃れる手を推奨していますが、広瀬九段が▲5八香と打って逃れると、評価値は一気に藤井JT杯の67%と大きく振れます。

秒読みの中の激闘

AIは香頭を歩で叩く手を推奨していますが、藤井JT杯が△6七成桂と寄せると、評価値は再び広瀬九段の74%と揺れ動き、もうどちらが勝つのかわからない大激戦となります。広瀬九段は▲5九金と打って受けると、藤井JT杯は成桂で香を取って王手し、広瀬九段が金で取ると、△6九飛成と竜を作って王手します。

緊迫の玉頭戦

広瀬九段は▲4八玉とかわし、藤井JT杯が△3四桂と自玉を守りつつ先手玉に圧力を掛けると、▲3六歩と桂頭を叩きます。藤井JT杯が最後の考慮時間を使い△4六桂と捨てて金で取らせ、空けたスペースに△3七銀と捨てて玉で取らせてから△5八竜と金を取ると、広瀬九段は慎重に▲4七金と引いて上部への脱出路を作ります。藤井JT杯は△6三桂と銀を取りつつ脱出路を狭め、広瀬九段が▲3四歩と伸ばして銀に当てると、△2六銀と捨てて玉で取らせ、△2五歩~△1五金と王手を続けます。

絶妙の金捨て

広瀬九段は▲3七玉とかわし、藤井JT杯が△2五金と銀を取って下駄を預けると、▲3三歩成と金を取って王手し、▲2四金と捨ててから▲2三"と"と王手を続け、馬で銀を食いちぎってから▲4一角と王手を続けます。後手玉には即詰みが生じており、藤井JT杯はしばらく目を閉じてから投了を告げました。

まとめ

本局は藤井JT杯が横歩を取った先手の飛車を追い返して1筋を制圧しましたが、広瀬九段は陣形を整えてから銀を繰り出して攻め掛かりました。藤井JT杯は飛車と金桂の2枚替えで先手玉に迫りましたが、竜を作った広瀬九段が徐々にリードする展開となりました。藤井JT杯は攻め合いに賭けて一瞬は逆転する激戦となりましたが、広瀬九段は慎重に凌ぎ切り、最後は金捨てから鮮やかな即詰みに討ち取りました。
勝った広瀬九段は自身2度目のJT杯決勝進出となり、24日に渡辺(明)九段との決勝戦に臨みます。
藤井JT杯は惜しくもJT杯3連覇はなりませんでしたが、観戦者をハラハラさせる熱戦だったと思います。

将棋日本シリーズJTプロ公式戦の棋譜等は、公式ホームページをご確認ください。


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