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「観る将」が観た第73期王将戦第四局

2月7-8日、第73期ALSOK杯王将戦七番勝負第四局が東京都立川市の「オーベルジュ ときと」で行われました。3連勝で防衛まであと1勝となった藤井聡太王将が一気に決着を付けるのか、菅井竜也八段が反撃の狼煙を上げるのか、注目の一局となりました。

大雪の影響で藤井王将の到着が遅れるハプニングがありましたが、検分は開始を少し遅らせて無事行われたようです。前夜祭では、藤井王将は「2日間にわたる長い対局になるので、一手一手しっかり読みを入れて作り上げていくような将棋にできればと思っています」、菅井八段は「今はすごく良い状態なので、明日からの対局に集中したいと思います」と話しています。


いきなり馬を作り合う乱戦に

明るく広々とした対局室に菅井八段が藍色の着物と灰色の袴に茶系の縦縞が入った羽織で入室すると、藤井王将は白い着物と灰色の袴に淡い水色の羽織で入室します。後手の菅井八段が4手目に三間飛車に振ると、藤井王将はすぐに角を交換し、お互いに角を打ち合って馬を作ります。

陣形の整備

両者とも陣形の整備に戻り、菅井八段が飛車を4筋に寄せると、藤井王将は▲4七銀と上がって意表を突きます。一見この銀を馬で取れば2枚替えができそうですが、飛頭を歩で叩く筋があって成立しないようです。菅井八段が次の28手目を考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は両者とも6時間23分で並んでいます。

藤井王将が飛車をぶつけて開戦か

昼休が明けると、菅井八段は5筋の歩を突き、両者とも穏やかに陣形を整備して間合いを測ります。藤井王将は飛車を4筋に寄せ、57分の長考で銀を5筋に上がって飛車をぶつけます。勝負所を迎えて菅井八段は大長考に沈み、95分考えて次の40手目を封じました。残り時間は藤井王将が4時間25分、菅井八段が3時間58分となっています。

菅井八段が馬を小刻みに移動

菅井八段の封じ手は、堂々と飛交換に応じる手でした。菅井八段が金を引いて自陣に飛車を打たれる隙を消すと、藤井王将も馬を引いて自陣の隙を消します。藤井王将が右金を自玉のそばに寄せて守りを固める間に、菅井八段は4手続けて馬を動かし△3六馬と銀に当てます。藤井王将が次の57手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井王将の70%と傾き、残り時間は藤井王将が2時間38分、菅井八段が3時間23分となっています。

再度の飛車交換

藤井王将は昼休を挟む57分の長考で1筋に飛車を打ち、馬に当てつつ銀にも紐を付けます。菅井八段が飛車で合い駒すると、藤井王将は飛交換して後手の馬を1手前の位置に戻し、3筋の金頭を歩で叩きます。菅井八段が金を引いてかわすと、藤井王将は2筋の歩を突き捨て、▲2三飛と打ち込みます。

藤井王将の竜

菅井八段は馬を4筋に引き、藤井王将が竜を作ると、△3三馬と竜にぶつけます。藤井王将が竜を下段に引くと、菅井八段は歩を打って竜の再侵入を防ぎます。両者とも隙を作らないように間合いを測り、藤井王将が銀を馬に当てると、菅井八段は馬を2筋に引いてかわします。

菅井八段の辛抱の受け

藤井王将は竜を4筋に寄せ、菅井八段が歩で守ると、竜を2筋に戻します。菅井八段が3筋に歩を合わせて交換すると、藤井王将は2筋に歩を合わせて交換し、銀をぶつけて馬を引かせてから▲3四歩と垂らします。残り1時間を切った菅井八段は金で取り、藤井王将が銀をぶつけると、金銀交換に応じてから歩を打って竜の利きを止めます。

藤井王将が香得

藤井王将は香取りに▲4四馬と出て、菅井八段が手抜いて6筋の歩をぶつけると、馬で香を取ります。菅井八段が桂取りに馬を6筋に上がると、藤井王将も残り1時間を切り、歩を打って桂を支えます。菅井八段が6筋の歩を取り込むと、藤井王将は馬で取り返します。AIの評価値は、香得となった藤井王将の80%と大きく傾いてきました。

美濃囲いの急所

菅井八段は馬頭を歩で叩き、藤井王将が馬を5筋に引いてかわすと、左桂を3筋に跳ねて活用を図ります。藤井王将は馬取りに▲7五金と打ち、菅井八段が馬を5筋に引いてかわすと、桂取りに竜を走ります。菅井八段は3筋の桂頭に歩を打って取り合いを狙いますが、藤井王将は▲6四香と美濃囲いの急所に攻め掛かります。

竜の再突入

菅井八段は構わず桂を取り、藤井王将が香で金を取ると、桂を4筋に跳ねて馬に当てます。藤井王将は馬を3筋にかわして後手の馬にぶつけ、菅井八段が銀で成香を取ると、馬を交換してから竜を後手陣に突入して王手します。菅井八段は数分盤上を見つめていましたが、全く手つかずの先手陣には付け入る隙がなく、金2枚を剥がされた後手陣の修復は難しく、ここで潔く投了を告げました。

まとめ

本局は菅井八段の誘いに応じて藤井王将が角を交換し、いきなり馬を作り合う激しい立ち上がりとなりましたが、いったんは両者とも自陣の傷を消して穏やかな展開となりました。藤井王将が飛車をぶつけると、菅井八段は長考の末交換に応じ、ジリジリした中盤戦が続きました。菅井八段が馬で銀を攻めると、藤井王将はうまく切り返して竜を作り、香得から少しずつ駒得を拡大し、気が付けば大差を付けての完勝となりました。

本シリーズの総括

藤井王将は4勝0敗で王将戦3連覇を果たし、タイトル戦では敗退知らずのまま、大山十五世名人の記録を上回るタイトル戦20連覇を達成しました。この大記録も、単なる通過点の一つでしかないと思わせる充実ぶりだと思います。
本シリーズは春の叡王戦に続く両者2度目の番勝負であり、菅井八段にとってはリベンジマッチでしたが、叡王戦での反省を糧にした藤井王将の対策が圧倒的に上回る結果となりました。振り飛車党の期待を一身に背負う菅井八段は対局後に、「もう少し力をつけて、振り飛車を工夫するとか戦い方を変えるとか、何か大きな変化が必要なのかな」と語っており、今回の結果をバネに捲土重来を期待したいと思います。

ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟が主催し、ALSOKが特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリー、富士フイルムが協賛しています。棋譜は公式サイトをご覧ください。

本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)

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