「観る将」が観た第44回JT杯2回戦 藤井JT杯vs菅井八段
9月9日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)2回戦、藤井聡太JT杯と菅井竜也八段の公開対局が、熊本市のグランメッセ熊本展示ホールで行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に1分の考慮時間5回)の早指し棋戦です。
前回優勝の藤井JT杯は、今回は本局が初戦となります。菅井八段は第39回に準優勝の実績があり、1回戦で斎藤(慎)八段を破って勝ち上がっています。両者の対戦成績は藤井JT杯の8勝4敗で、今年度叡王戦五番勝負以来の対局となります。
両対局者が紹介され、藤井JT杯が濃い青緑色の着物と灰色の袴に袴と同色の羽織をまとい、菅井八段が淡い若草色の着物と灰色の袴に薄黄色の羽織をまとって登場すると、会場は盛大な拍手に包まれます。
菅井八段は四間飛車
観客の中から抽選で選ばれた方の振り駒で先手となった菅井八段が四間飛車に振り、▲5六銀と繰り出して角頭を狙うと、藤井JT杯は2筋の歩を突いて応じます。菅井八段が▲4五銀と前進すると、藤井JT杯は△2三玉と上がって角頭を守り、天守閣美濃に構えます。菅井八段が1筋の香を上がって穴熊を目指すと、藤井JT杯は5筋の歩を伸ばします。
5筋の攻防
菅井八段が5筋の歩をぶつけて反発すると、藤井JT杯は少考して4筋の歩を突き、銀を3筋に引かせてから5筋の歩を取り込みます。ここで解説の豊川七段が封じ手を宣言し、次の一手を菅井八段が封じます。会場では封じ手予想クイズが行われ、①4七銀、②1九玉、③6七金、④その他が候補に挙げられています。
菅井八段の穴熊
休憩後に開封された菅井八段の封じ手は、候補にも挙げられていた6筋に金を上がって5筋の歩を狙う手でした。藤井JT杯は△5四銀と上がり、菅井八段が金で5筋の歩を取ると、歩を打って金を引かせます。藤井JT杯が角を引いて8筋を睨むと、菅井八段は玉を1筋に潜ります。藤井JT杯が△4三金と上がって陣形を引き締めると、菅井八段は▲2八銀と穴熊に蓋をします。
藤井JT杯の仕掛け
藤井JT杯が持ち時間を使い切り、7筋の歩を突くと、菅井八段は金を3筋に寄せて穴熊を完成します。藤井JT杯は△7三桂と玉頭を手厚くし、菅井八段が飛車を5筋に寄せると、考慮時間を使って8筋の歩をぶつけます。菅井八段も持ち時間を使い切り、▲8六同歩と応じると、藤井JT杯は7筋の歩を交換して角で取ります。
歩頭の銀
急所の局面を迎え、菅井八段が考慮時間を2回使って飛車を8筋に回すと、藤井JT杯は歩頭に△6五銀と出ます。取ると金を取られて馬を作られてしまうので、菅井八段は更に考慮時間を使って8筋の歩を伸ばします。藤井JT杯は△7六銀と出て角に当て、菅井八段が角を9筋にかわすと、考慮時間を2回使って9筋の歩を突いて角に当てます。
小刻みな飛車の動き
菅井八段が▲8四角とぶつけると、藤井JT杯は△6四角とかわします。菅井八段は考慮時間を使って飛車を7筋に寄せて銀に当て、藤井JT杯に歩を使わせてから6筋に寄せます。藤井JT杯が考慮時間を使って△5三角と先受けすると、菅井八段は最後の考慮時間を使って飛車を8筋に回します。
金損の代償に5筋の"と金"
藤井JT杯が5筋の歩を伸ばして先手の金を吊り上げ、△6七銀不成と飛び込んで金に当てると、菅井八段は5筋の角頭を歩で叩き、金で取らせてから▲6五金とぶつけます。藤井JT杯は同金と応じ、菅井八段が取れる金を取らずに再び角頭を叩くと、力強く△7五角とぶつけます。菅井八段は角交換に応じ、金損の代償に▲5三歩成と要所に"と金"を作りますが、ずっとほぼ互角を示していたAIの評価値は藤井JT杯の67%と傾きます。
飛車を捕獲
藤井JT杯は△7八歩成と"と金"を作って飛車に当て、菅井八段が飛車を浮いて銀に当てると、△5六銀成とかわします。菅井八段は4筋の歩をぶつけますが、藤井JT杯は△7六角と打って飛車を捕獲します。菅井八段が飛車を4筋にかわして成銀と交換すると、藤井JT杯は△5九飛と打ち込みます。
菅井八段の反撃
菅井八段が金取りに▲4二銀と打ち込むと、藤井JT杯は△2二金と埋めて補強します。菅井八段が金銀交換し、4筋の歩を取り込んで"と金"作りを狙うと、藤井JT杯は△4二歩と防ぎます。菅井八段は4筋の歩を成り捨ててから▲4四歩と打ち直し、藤井JT杯が同歩と応じると、▲4三歩と垂らします。
一直線の攻め合い
藤井JT杯は△8五飛と走り、菅井八段は4筋に2枚目の"と金"を作りますが、構わず△8九飛上成と桂を取って竜を作ります。菅井八段が▲4三"と"寄と後手玉に迫ると、藤井JT杯は△3九飛成と金銀との2枚替えで先手玉に迫ります。菅井八段が▲3八金と自陣に手を戻すと、藤井JT杯は竜で金を食いちぎり、△4八金と打って詰めろを続けます。
角の守り
菅井八段が"と金"で桂を取って王手すると、藤井JT杯は玉で"と金"を取ります。大駒3枚を手持ちにした菅井八段は攻防に▲5五飛と打って詰めろを逃れ、藤井JT杯が銀で"と金"を取ると、角を犠牲に竜を作って王手します。藤井JT杯が金で合い駒すると、菅井八段はもう1枚の飛車を▲3九飛と打ち込んで王手を続けます。藤井JT杯が玉を2筋に寄ってかわすと、後手陣は30数手前に7筋に打った角が守りに利いて有効な王手が続かず、菅井八段は投了を告げました。
まとめ
叡王戦五番勝負では全局三間飛車で戦った菅井八段が、本局では四間飛車穴熊を採用しました。天守閣美濃に囲った藤井JT杯は8筋から仕掛け、相手の歩頭に銀を差し出す妙手で意表を突き、主導権を握ったように見えました。菅井八段は金損の代償に"と金"を作って攻め込みましたが、藤井JT杯は角を打って飛車を捕獲すると、2枚飛車で先手の穴熊を破壊しました。菅井八段の最後の連続王手も迫力がありましたが、後手陣は飛車を捕獲する際に放った角が最後まで守りに利いて、藤井JT杯が逃げ切りました。
連覇を目指す藤井JT杯はベスト4に進出し、準決勝は10月21日に大阪で永瀬王座との対局となっています。王座戦五番勝負を戦っている両者の、早指し公開対局での対決を楽しみにしたいと思います。
将棋日本シリーズJTプロ公式戦の棋譜等は、公式ホームページをご確認ください。
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