「観る将」が観た第50期女流名人戦第三局
2月4日、岡田美術館杯第50期女流名人戦五番勝負第三局が、千葉県野田市の関根名人記念館で行われました。奪取まであと1勝となった福間香奈女流四冠が一気に決着を付けるのか、カド番に追い込まれた西山朋佳女流名人が巻き返すのか、注目の一局となりました。
前日に行われた歓迎レセプションでは、西山女流名人は「星取りは厳しい状況ではありますが、変わらず頑張ってまいります」、福間女流四冠は「明日は力を出しきれるように頑張ってまいります」と挨拶しています。
三間飛車対居飛車
大きな窓のある明るい対局室に、西山女流名人がベージュのトップスに黒いボトムスで入室すると、福間女流四冠は白いシャツに亜麻色のスーツ姿で入室します。先手の西山女流名人が初手に三間飛車に振ると、態度を保留していた福間女流四冠は26手目に飛先の歩を突いて居飛車を採用します。
西山女流名人の仕掛けに福間女流四冠が反発
西山女流名人が4筋の歩を伸ばして銀に当てると、福間女流四冠は24分の熟考で△3三銀と引きます。西山女流名人が▲3七桂と跳ねると、福間女流四冠は飛車の横利きを止めると銀桂交換を避けられないので、7筋の歩を突き捨ててから更に8筋の歩をぶつけます。西山女流名人が次の35手目を考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は西山女流名人が1時間59分、里見女流四冠が1時間50分となっています。
銀を犠牲に8筋突破
西山女流名人は昼休が明けるとすぐ▲8五同歩と応じ、福間女流四冠が△7五銀と前進すると、▲7六歩と銀頭を叩きます。福間女流四冠は構わず△8六歩と垂らし、西山女流名人が銀を取ると、飛角両取りに△8七歩成と"と金"を作ります。西山女流名人は飛車を引いてかわし、福間女流四冠が取れる角を取らずに飛車を走ると、▲6六角とかわします。
福間女流四冠が駒損を回復
福間女流四冠は△8八"と"と入って飛桂香に当て、西山女流名人が飛車を浮いてかわすと、△8七飛成と竜を作って飛車に当てます。西山女流名人は▲7七銀と上がって飛車に紐を付け、福間女流四冠が△7八竜と王手すると、▲4八金引と受けます。福間女流四冠は銀取りに△8七"と"と引き、西山女流名人が7筋の歩を伸ばすと、"と金"を作らせる間に桂と銀を取って駒損を回復します。
飛車を攻める福間女流四冠
残り1時間を切った福間女流四冠は△8七竜と引いて飛車に当て、西山女流名人が▲7四飛とかわすと、△4六桂と王手します。西山女流名人が玉を2筋に引いてかわすと、福間女流四冠は△6五銀と持ち駒を投じて飛車を取りにいきます。西山女流名人も残り1時間を切り、飛車を逃げずに▲5三銀と打ち込んで詰めろを掛けます。形勢はわずかに先手が指し易くなってきたようです。
竜を捕獲する西山女流名人
福間女流四冠は△5二金左と詰めろを逃れ、西山女流名人が▲8八歩と竜頭を叩くと、△8五竜とかわします。西山女流名人は金銀交換して取った金で竜を捕獲し、福間女流四冠に飛車と金を取らせる代わりに▲7一飛と王手で打ち込みます。福間女流四冠と玉を4筋に上がってかわすと、西山女流名人は▲6三"と"と捨てて飛車の利きで角に紐を付けてから、銀取りに▲2五桂と跳ねます。
福間女流四冠の勝負手
銀を逃げると角を素抜かれてしまうので、福間女流四冠は手抜いて飛角両取りに△7三飛と勝負手を放ちます。西山女流名人は銀桂交換し、取った銀で王手角取りに▲3一銀と打ちます。取ると角切りから竜を作られて寄せられてしまうので、福間女流四冠は△5三玉とかわしますが、西山女流名人は飛車を交換してから▲2二銀不成と角を取ります。
福間女流四冠の反撃
福間女流四冠は取られそうな桂を△2五桂と跳ねて先手玉の退路を塞ぎ、西山女流名人が▲3一角と王手すると、玉を6筋に引いてかわします。西山女流名人は▲1一銀成と香を取り、福間女流四冠が詰めろ角取りに△7九飛と打ち込むと、空けたスペースに王手桂取りで▲2二飛と打ち、▲2五飛成と桂を外して詰めろを逃れます。形勢は混沌としてきたようです。
西山女流名人の逆襲
福間女流四冠は飛車で角を取って竜を作り、西山女流名人が金取りに▲7五桂と打つと、△7九竜と潜ります。西山女流名人は▲1八玉と早逃げし、福間女流四冠が竜頭を歩で叩くと、▲3四竜と後手玉に迫ります。福間女流四冠は△5三金打と手堅く竜の進撃を防ぎ、西山女流名人が▲4四歩と突くと、11分考えて残り6分となり同歩と応じます。形勢は再び先手に振れてきたようです。
ギリギリの攻防
西山女流名人は8手前に打った桂を金と交換し、▲7四歩と桂頭を叩いて銀で取らせ、▲7五歩と銀頭を叩きます。1分将棋となった福間女流四冠は△2五桂と打って先手玉の退路を塞ぎ、西山女流名人が▲3三竜と入って後手玉を守る金を狙うと、△6四角と金に紐を付けつつ、遠く先手陣を睨みます。
鮮やかな即詰み
西山女流名人は▲7四歩と銀を取り、福間女流四冠が△3八桂成と詰めろを掛けると、▲5三角成と金を食いちぎって王手し、▲7三歩成と桂を取って王手します。福間女流四冠はやむなく△7三同竜と取りますが、西山女流名人は▲3八金寄と成桂を取って詰めろを逃れます。福間女流四冠は再び△7九竜と潜りますが、西山女流名人は▲5三竜と角と刺し違えて王手し、そのまま長手数の即詰みに討ち取りました。
まとめ
本局は出だしの駆け引きの末、福間女流四冠が居飛車を選択しましたが、西山女流名人は機敏に仕掛けて後手の駒組みを牽制しました。福間女流四冠は居玉のまま反発しましたが、西山女流名人は飛車取りに構わず攻め込みわずかに優勢となりました。福間女流四冠は先手の攻め駒を攻める勝負手で形勢を混沌とさせましたが、西山女流名人は自玉の危機を凌ぐと逆襲に転じ、鮮やかな即詰みに討ち取りました。両者が持ち味を出し切った好局だったと思います。
対局後に、1勝を返した西山女流名人は「また1局指せるということで、しっかり準備して挑みたいと思います」、福間女流四冠は「変わらず頑張っていきたいと思います」と話しており、次局も熱戦を期待したいと思います。
岡田美術館杯女流名人戦は、報知新聞社と日本将棋連盟が主催し、株式会社ユニバーサルエンターテインメントが特別協賛しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。