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「観る将」が観た阪神甲子園球場での記念対局 藤井竜王名人vs羽生九段

創立100周年を迎える日本将棋連盟が、同じく2024年に100周年を迎える阪神甲子園球場とコラボレーションし、共同での100周年企画として、9月8日に阪神甲子園球場にて藤井聡太竜王名人と羽生善治九段による記念対局が行われました。非公式戦ではありますが、将棋界のゴールデンカードであり、注目の対局となりました。


対局は球場の貴賓室で行われ、阪神ファンでもある谷川浩司十七世名人や久保利明九段が3塁側特設ステージで大盤解説を行うという豪華な顔ぶれとなっています。

戦型は角換わり相早繰り銀

振り駒で先手となった藤井竜王名人が角換わりに誘導し、珍しく早繰り銀を採用すると、羽生九段は相早繰り銀で応じます。藤井竜王名人は3筋から仕掛け、羽生九段が定跡化された8筋を継ぎ歩で攻めると、▲3四歩と拠点を築きます。羽生九段は8筋を押さえ込んでから△3三歩と合わせて拠点を消し、藤井竜王名人が2手掛けて矢倉から雁木に組み替える間に、△3四歩と銀を追って△4四歩と突きます。

藤井竜王名人の好所の角

お互いにいったん陣形を整備し、藤井竜王名人が再度3筋の歩をぶつけると、羽生九段は4筋の歩を伸ばして銀を吊り上げてから3筋の歩を取ります。藤井竜王名人は6筋の歩を伸ばして銀に当て、羽生九段が銀を7筋引くと、▲4六角と間接的に後手の飛車を睨む好所に据えます。羽生九段は玉を4筋に上がって戦場から遠ざけ、藤井竜王名人が7筋の歩をぶつけると、飛車を9筋に寄って角のラインから外して辛抱します。AIの評価値は藤井竜王の61%とわずかに傾いています。

羽生九段の攻防の角

藤井竜王名人が7筋の歩を取り込んで銀で取らせてから▲7二歩と垂らすと、羽生九段は歩成を防いで△9三角と放ちます。この角は先手の角の利きが外れると5筋に飛び込んで馬を作る攻撃も狙っており、AIの評価値はほぼ互角に戻ります。藤井竜王名人が9筋の歩を突いて後手の角に圧力を掛けると、羽生九段は4筋に歩を打って銀を追い、△3四金と上がって先手の角に圧力を掛けます。

両者の角を巡る攻防

藤井竜王名人は9筋の歩をぶつけ、羽生九段が4筋の歩を伸ばして角に当てると、構わず9筋の歩を取り込んで角に当て返します。羽生九段は8筋に角をかわし、藤井竜王名人が5筋に角をかわすと、更に歩で3筋から2筋へと追い、△7二飛と垂れ歩を取りつつ角成を防ぎます。AIの評価値は羽生九段の58%と逆転模様となっています。

藤井竜王名人の馬

後手の角が成れる状況となり、苦しくなってきた藤井竜王名人は6筋の歩を突き捨て、7筋の銀頭を歩で叩いて角で取らせ、9筋の歩を成り捨てて桂で取らせ、▲7三歩と飛頭を叩きます。羽生九段は飛車を5筋にかわし、藤井竜王名人が▲7一角成と先に馬を作ると、5筋の歩を伸ばして銀に当てます。藤井竜王名人は▲6一馬と飛車に当て、羽生九段が構わず歩で銀を取ると、馬を飛車と刺し違えて▲8二飛と王手で打ち込みます。

羽生九段の馬

羽生九段は△4三玉とかわしつつ3筋の金に紐を付け、藤井竜王名人が▲5六銀と自陣に迫る歩を取ると、△5七角成と馬を作って銀に当てます。藤井竜王名人が▲6七金と上がって銀に紐を付けつつ馬に当てると、羽生九段は△5八歩と王手し、先手玉を6筋に追ってから△3五馬とかわします。

激しい攻め合い

持ち駒が歩しかない藤井竜王名人は香で9筋の桂を取り、羽生九段が△4二銀と引いて玉の退路を作ると、更に▲9一香成と香を補充します。羽生九段は△7六歩と桂頭を叩き、藤井竜王名人が▲5八金と上がって補強すると、桂を取ってから△5七歩と金頭を叩きます。藤井竜王名人は金を6筋に寄ってかわし、羽生九段が△7六歩と叩いて吊り上げた金に当てて△4九角と打ち込むと、▲6七歩と打って角の利きを遮ります。

開き王手の即詰み

羽生九段が更に△7五歩と金頭を叩くと、藤井竜王名人は▲5五桂と王手で反撃します。羽生九段は数手前に銀を引いて空けた3筋のスペースに玉をかわし、藤井竜王名人が銀取りに▲4三香と追撃すると、7筋の金を歩で取ります。藤井竜王名人は▲4二香成と詰めろを掛けて下駄を預けますが、羽生九段は△7七桂から王手を続け、△5八歩成と馬の利きを活かした開き王手で即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は藤井竜王名人が角換わり早繰り銀を採用し、角を好所に据えてわずかに優勢となりました。羽生九段は飛車をいったん9筋に退避して辛抱し、攻防の角を放って主導権を奪い返すと、先手陣の急所に馬を作って追い詰めました。藤井竜王名人は細い攻めを繋いで攻め合いましたが、羽生九段は馬の利きを活かして鮮やかな即詰みに討ち取りました。
羽生九段は対局後、「今回は100周年という記念というかお祝いなんですけれど、藤井さんからお祝いをいただいたような気持ちです」と謙遜していましたが、絶対王者へと急成長した藤井竜王名人に、今もなお立ちはだかることのできる数少ない棋士の一人であることを再認識させる一局だったと思います。近い将来、この両雄が再びタイトル戦の場で鎬を削る姿を心待ちにしています。

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